野生ネコ、開発で狭まる生息地 遺伝子多様性に黄信号

日経ナショナル ジオグラフィック社

2021/12/6
ナショナルジオグラフィック日本版

有名なオスのカラカル「ヘルメス」。とても人に慣れている(PHOTOGRAPH BY JAY CABOZ)

南アフリカ、ケープタウン。そのネコ科動物は山道に座り、息を弾ませながら低い山を登ってくる私たち3人を見つめていた。カラカルだ。2021年10月のある暖かい夕方のことだった。

山道からはケープタウンの街の明かりを見下ろすことができ、反対側にはテーブルマウンテンの切り立った岩肌がそびえている。逃げていくだろうと思ってしばらく立ち止まってみたが、予想に反して、カラカルはこちらへ向かってきた。

ヘッドランプが、その茶色い体や丸い目、大きくとがった耳を照らし出す。耳の先には、黒く長い毛が生えている。カラカルはそのまま私たちの横を通り過ぎ、一瞬立ち止まってこちらを振り返ると、茂みの中に消えていった。

このあたりで「ヘルメス」と呼ばれているカラカルであることはすぐにわかった。ヘルメスは人に慣れており、このテーブルマウンテン国立公園でハイカーやトレイルランナーによく目撃されているという。

テーブルマウンテン国立公園は、ケープタウンの市内にあり、250平方キロメートルほどの広さがある。ケープタウンは海に面した南ア有数の都市で、1970年に110万人だった人口が、現在は470万人まで増えている。市街地のすぐそばに山があり、ヒヒ、ヘビ、ペンギンといった多くの野生動物が都市に適応して暮らしている。4歳か5歳と考えられているヘルメスは、そんなケープタウンの自然保護の象徴のような存在だ。

都市に暮らすカラカル

カラカルは体高50センチほどのネコ科の動物だ。足が長くて警戒心が強く、通常は夜に活動する。アフリカやアジアのさまざまな場所に生息しており、絶滅の危機にあるわけではない。

ただ、ケープタウンのカラカルは別の意味で注目に値する。ヒョウが狩猟によって姿を消した20世紀初頭以降、カラカルがケープ半島の最上位捕食者となっているからだ。ケープタウン大学の研究員ガブリエラ・レイトン氏によると、都市部でカラカルがよく見られるようになったのは最近のことだ。ミナミヤブカローネズミやホロホロチョウなど、捕まえやすい獲物に引き寄せられたのではないかという。現在、ケープ半島には60匹ほどのカラカルがいると考えられている。

「カラカルは、何であろうと一番捕まえやすい獲物を狙います」とレイトン氏は話す。氏はカラカルの行動に関する研究を主導し、20年2月20日付で学術誌「Urban Ecosystems」に発表した。

テーブルマウンテン国立公園内を移動するヘルメス(PHOTOGRAPH BY HILTON DAVIES)

カラカルは、人に慣れるにつれて、多くの人が訪れるハイキングコースや、カーステンボッシュ国立植物園、日没に人が集まるクリフトン・ビーチなど、市内各地の自然が残る場所に出没するようになっている。

多くのカラカルが好んで狩りをするのは、市街地のはずれにある住宅地、道路、ブドウ園などだ。開発が進んでいるテーブルマウンテン北側では、その傾向が特に強い。私たちがヘルメスを見かけたのも、テーブルマウンテンの北側だ。

次のページ
脅威の実態が調査で明らかに