日経ナショナル ジオグラフィック社

2021/10/2
トラネコの縞模様は、イエネコの直接の祖先であるリビアヤマネコに由来する(PHOTOGRAPH BY TODD GIPSTEIN, NAT GEO IMAGE COLLECTION)

バーシュ氏が言うには、DKK4は「分泌分子」と呼ばれるメッセンジャータンパク質でもあり、周囲の他の細胞にシグナルを送る。簡単に言うと、「君は特別だ。君は濃い色の毛が成長すべき場所だ」と告げるのだ。

すべてが計画通りに進めば、DKK4を持つ細胞はトラネコをトラネコたらしめる模様の暗色部分になる。しかし、突然変異によって、白い斑点や細い縞模様など、他の毛色や模様が現れることもある。また、色素の変化が起こることもある。例えば、黒一色の被毛は、本来は別の色を作るはずだった色素細胞が、黒い色素しか作らなかった場合に起こる。

自発的に発生する模様

これらの細胞が実際にどのようにしてネコの体に縞模様を生み出すのか、研究チームはコンピュータ科学者で数理生物学の創始者であるアラン・チューリングに注目した。チューリングは1952年に、自然界で模様が自然に発生する仕組みを数学的に説明した。

反応拡散系と呼ばれる彼の理論は、発生過程でシステムが自己組織化することを数学的に予測したものだ。活性因子および抑制因子と呼ばれる、細胞から細胞への移動(拡散)速度が異なる分子(ネコの場合は遺伝子によって生成される分子)が存在する場合に、抑制因子が活性因子よりも遠くに、あるいは速く拡散すれば、システムが自ら組織化する、と彼は予測した。トラネコの場合、抑制因子が遺伝子DKK4と分かったが、活性因子は不明だ。

チューリングは活性因子や抑制因子が何であるかを知らなかった。それらが存在するかどうかも知り得なかった。しかし、チューリングが示して70年以上たった今、トラネコにおける今回の発見を含めて、チューリングの正しさを証明する発見が相次いでいる。

「私たちは、発生過程で細胞が動き回っていると考えがちですが、このように早い段階で、縞模様が厚みとして形成されているとは......実に先進的ですね」。米メリーランド州にある国立衛生研究所のヒトゲノム研究所で、飼いイヌの遺伝的研究を行っているエレイン・オストランダー氏は語る(同氏は、今回の研究に参加していない)。

単一の細胞を分析することで、「子どもの絵本に出てくるようなあの模様が得られるために必要な、さまざまなプロセスの一部が解明されたのです」。オストランダー氏は付け加えた。

バーシュ氏のチームは現在、ネコの色柄の生成には2段階のプロセスがあると考えている。まず、皮膚の細胞が、模様の色が濃いか薄いかを判断する。その後、毛包が成長して色素を作る。

これらのプロセスが他の動物でどのように機能しているのか、なぜ縞模様が出る動物と出ない動物がいるのかを調べることで、色柄がどのように進化してきたのかを解明したいとチームは考えている。もしかすると、毛の色とは全く関係ないように思える発見があるかもしれない。かつてダーウィンが想像したような、目には見えない違いが。バーシュ氏はそう考えている。

(文 JOANNA KLEIN、訳 桜木敬子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年9月14日付]