日経ナショナル ジオグラフィック社

2022/1/8

オオカミとの共存

アメリカアカオオカミの保護において重要なことのひとつは、彼らはこの土地の一部であり、人間の生活を脅かすものではないことを人々に理解してもらうことだ。

アメリカアカオオカミは、米国の絶滅危惧種法のもとで保護されているもの21年9月22日付で学術誌「Biological Conservation」に掲載された研究によると、生息数が回復している地域に住む人間のうち、ごく少数が、オオカミを絶滅に追いやっている主な要因であることがわかったという。

地元住民の大多数がオオカミに好意的な印象を持っているにもかかわらず、地域のハンターの11%が、オオカミに遭遇した場合は殺すと答えている。「ワイルドランズネットワーク」をはじめとする保護団体は長年の間、アメリカアカオオカミは人間にとって危険な存在ではなく、地域の野生生物資源にも害を与えないという事実を伝えるための活動を続けてきた。

明け方、ノースカロライナ州アリゲーターリバー国立野生生物保護区の野原で撮影された野生下のアメリカアカオオカミ(PHOTOGRAPH BY JESSICA A. SUAREZ)

政府機関と自然保護団体は力を合わせて、地域社会の理解を求めるためのプログラムを進めていきたいとしている。具体的な例としては、バーチャルな説明会、看板設置などの広報活動のほか、「プレイ・フォー・ザ・パック」というプログラムの提供などがある。

このプログラムは、アメリカアカオオカミに適した生息地をつくり、これを維持し、彼らが私有地に入ることに同意する代わりに、地元の土地所有者にインセンティブを提供するというものだ。魚類野生生物局は現在、「プレイ・フォー・ザ・パック」を通じた合意のもとに約4平方キロの私有地を確保しており、これをさらに増やすべく動いている。

魚類野生生物局は最近、アメリカアカオオカミの最新の個体回復計画を策定するための専門家チームを結成した。この計画には、彼らのかつての生息範囲内(ノースカロライナ東部の外側)における、野生の個体群が定着できる可能性のある場所の調査も含まれる。

同局はまた、アメリカアカオオカミの縄張り確保と交雑回避のために、コヨーテの捕獲と不妊手術を再開するとしている。これは、かつては効果を上げていたものの、近年では中断されていた手法だ。

ほぼ復活していた種が再び絶滅の危機にひんしていることで、アメリカアカオオカミの回復は「最初からやり直し」のように思われるかもしれないが、生物学者や専門家らは過去30年間で、何をすべきかについてたくさんの知見を得てきた。

数多くの不幸な失敗、挫折があり、課題はまだ残っているものの、多くの人が「この種を本来の生息地に復活させるために努力し、希望を抱く新たな理由を見出している」ことには、大いに勇気づけられるとモソッティ氏は言う。

(文 MEAGHAN MULHOLLAND、写真 JESSICA A. SUAREZ、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年12月9日付]