次に必要なのは、より多くのオオカミを自然に放すことだと、サザーランド氏ら保護活動家は言う。「野生下に暮らす個体数がもう一度40~50頭まで増え、軌道に乗る兆しが見えてくるまで」は、こうした放獣を続けていく必要があると、氏は述べている。現時点でアメリカアカオオカミを支える最善の方法は、「成体や若いオオカミを放すことよりも、飼育下にある子供を、子連れの野生のオオカミに引き取ってもらうこと」だという。
アメリカアカオオカミが自分たちの周りの環境をよく知るためには、おそらくは親から教えてもらうのが一番だ。親オオカミは、道路を避けること、狩りの方法、巣穴を構える場所などについて、何世代にもわたって蓄積されてきた知恵を授けてくれるに違いない。子供を野生の親に里子に出すプロセスは、アメリカアカオオカミにおいては100%の成功率を誇っており、これは個体群の遺伝的多様性にもつながる。

ただし、これはタイミングが難しい。野生のオオカミが子を産んだタイミングをねらう必要があるからだ。19年と20年は子が生まれなかった。ただし21年の里子作戦はどうやら成功したようだ。今年の冬もつがいが何組か放たれるが、彼らが春に子供を生むかどうかも蓋を開けてみるまではわからない。
飼育下のオオカミたちは、自然の中に放たれる日に備えるために、外の世界で遭遇するであろう風景を再現した大型の囲いの中で飼育される。交通事故に備えるのは容易ではないが、飼育員らは慎重に、ネガティブな要素を環境に採り入れる試みを行っている。たとえば、飼育下のオオカミが、車の音から健康診断などのいやな体験を連想するように仕向ける、といったものだ。
一方で、ポジティブな要素も採り入れている。新しい香りや自然物、録音された動物の鳴き声、隠された食べ物、獲物のまるごとの死骸などを使って、精神的・肉体的な刺激を与えるというものがあると、ミズーリ州にあるエンデンジャードウルフセンターのレジーナ・モソッティ氏は述べている。
飼育下にあるオオカミが人間から食べ物を連想するのを避けるために、餌の時間は一定にならないように設定されている。オオカミたちはまた、可能な限り家族のグループで飼育される。これは「野生環境で彼らが経験するものに近づける」ためだと、ラッシャー氏は言う。
魚類野生生物局は、自動車との衝突を減らすための戦略を立てており、自動車用の標識、野生動物用の横断歩道、道路反射板のほか、オオカミに車や道路を避けることを学習させる嫌悪的条件付けなどに取り組んでいるという。

また、今冬に予定されているものも含めた将来的な放獣は、作物の生育期を避けて行われる。そうした時期であれば、近隣の道路の交通量が少なくなるからだ。魚類野生生物局は州の交通局と協力して、携帯できる電子メッセージボードを4台購入しており、これはさまざまな場所でドライバーに注意を呼びかけるために使われる。