日経ナショナル ジオグラフィック社

2021/11/1

ヨーロッパからアフリカへ2度移動?

今のところ、ケラトスコプスとリパロヴェナトルが同時代に生きたのか、そして両者の時代がバリオニクスの時代と重なっていたのかは不明だ。骨の年代を正確に推定するにはどの岩層に埋まっていたかという情報が必要だが、これらの化石は露出した崖から落下したため、そうした情報が存在しないのである。およそ1億2900万年前から1億2500万年前の白亜紀初期に生息していたと推定されている。

それでも、今回の研究は、スピノサウルスの仲間が太古の地球上を大移動していたことを示している。バーカー氏らがスピノサウルスの最新の系統樹を作成したところ、初期の種のほとんどが、現在のヨーロッパに生息していたことがわかった。

この発見は、スピノサウルス科の祖先の故郷が北半球、おそらくはヨーロッパにあったという説を強めるものだ。そうすると、スピノサウルスの仲間は少なくとも2度、現在のアフリカに移動したということになる。1回目に移動した系統からニジェールのスコミムスが生まれ、2回目に移動した系統からスピノサウルスや北アフリカの近縁種が生まれた。

しかし、スピノサウルス科がヨーロッパで誕生したとすると、謎は深まる。恐竜時代の多くの期間、ユーラシアと北米はつながっていた。ヨーロッパやアジアでスピノサウルス類の化石が発見されている一方で、北米では明らかにスピノサウルス類と言えるものは見つかっていない。

この時代、他の恐竜グループは北米とアジアを行き来していたことがわかっている。太古の北米にはスピノサウルス類が生息していたような環境もあった。「スピノサウルスがいなかったと考えられる特別な理由は何もないのです」と、ホルツ氏は言う。「歯が1本、発見されるだけでよいのですが」

バーカー氏とゴスリング氏によるワイト島のスピノサウルス類の研究はまだ始まったばかりだ。バーカー氏によれば、ケラトスコプスとリパロヴェナトルの化石には脳頭蓋の一部が含まれており、将来的に化石をスキャンすることで、彼らの脳の形状に関するデータが得られる可能性があるという。

ワイト島には、まだこれから調査が行われるスピノサウルス類の化石もあるという。これらも、ケラトスコプスとリパロヴェナトルとともにダイナソー・アイル博物館に保管されている。この博物館は、科学の場であり、ワイト島の文化的なランドマークだ。

「ワイト島の恐竜にとって、この島にきちんとした恐竜博物館があることがどれほど重要か、いくら強調しても足りません」とゴスリング氏は語る。「世界のどこかに送られてしまうのではなく、発見された土地にあるのですから」

(文 MICHAEL GRESHKO、訳 桜木敬子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年10月7日付]