明らかになってきたスピノサウルス科の実像
スピノサウルス類の化石は100年以上前から知られていたが、その実像が明らかになるまでには長い歳月を要した。スピノサウルスの最初の化石は第2次世界大戦で破壊されるなど、化石が希少で、断片的なものが多かったからだ。
1986年、英国の古生物学者であるアラン・チャリグ氏とアンジェラ・ミルナー氏がイングランド南東部で、約1億2900万年前から1億2500万年前に生息していたスピノサウルスの仲間をほぼ完全な形で発見したと発表した。バリオニクスと名付けられたこの化石のおかげで、スピノサウルスの仲間がワニのような顔をもち、大きな爪や細長い首をもっていたことが明らかになった。
現在では、スペインやブラジル、タイ、モロッコ、ニジェール、オーストラリアなどでもスピノサウルス科の恐竜化石が見つかっており、このグループの研究が進められている。
一方、イングランド南部のスピノサウルス科がバリオニクスだけでないらしいことも、その後明らかになってきた。例えば、この地域で見つかるスピノサウルス科恐竜の歯は、様々な形をしていた。単なる個体差かもしれないし、複数の種である可能性もあった。
今回の化石は、チルトン・チャインという古代の砂岩の崖に囲まれた海岸の小峡谷で発見され、ワイト島にあるダイナソー・アイル博物館が入手したもの。サウサンプトン大学の進化生物学者、ニール・ゴスリング氏がその情報を耳にし、2019年、バーカー氏が同氏のもとで博士研究を開始した際、研究のためにこの骨を引き受けることになった。
バーカー氏は数年かけて、化石骨の特徴を注意深く記し、既知のスピノサウルス科の特徴と比較した。コンピューターモデルでデータを分析したところ、化石は2種のスピノサウルスであること、ともにバリオニクスやスコミムス(ニジェールのスピノサウルス類)の近縁種であることがわかった。
プロジェクトの終盤、バーカー氏、ゴスリング氏、そして共同研究者たちは、新しい恐竜の名前を決めるためにメールのやりとりをした。英国の自然史博物館で優れた業績を残したミルナー氏が、8月に73歳で亡くなったばかりだった。チームにとっては、ミルナー氏を称えることが「正しいことのように思えた」とゴスリング氏は話す。「彼女のおかげで、スピノサウルス類は多くの人の知るところになったのです」