マスクしていても口臭が気になる? 対策は朝食にあり
コロナ禍によるマスク生活では、口臭を気にする人が多いという。はたしてマスクと口臭は関係があるのだろうか。そもそも口臭はどのように発生するのか。また、口臭を防ぐにはどうすればいいのか。
一般社団法人日本私立歯科大学協会は、10月22日に歯科プレスセミナーを開催した。その中で松本歯科大学教授の亀山敦史氏による講演「コロナ禍のマスク生活で気になる 口臭の仕組みと対策」を基に、マスクと口臭について紹介しよう。
マスクをするようになったら口臭が気になりだした?
日本私立歯科大学協会では、昨年、口の中に関するアンケートを実施した。すると、マスクをするようになって「自分の口のにおいが気になるようになった」人が39.4%いるのに対し、逆に「口臭を気にすることが減った」人も25.4%とかなり多い。マスクをすることで、いままでと違う感覚を持つようになったことは確かだが、実際にはマスクと口臭の関係はどうなっているのだろう。
コロナによる行動変化が歯・口に及ぼす影響
口臭の主な原因は、硫黄を含む化合物
そもそも口臭はどのように発生するのか、亀山さんはこう説明する。
「口臭の9割は、口の中から発生します。鼻、気管支、肺なども原因になることはありますが、口臭のほとんどは口の中の問題です」(亀山さん)
口の中は、ほとんど粘膜でできている。この粘膜を構成する細胞は、常に新しいものができては古いものと入れ替わっていく。不要になり剥がれ落ちた古い細胞はタンパク質を含んでいて、口の中にいる細菌にとっては格好のエサだ。
剥がれ落ちた細胞が細菌によって分解されると、システインやメチオニンといった硫黄原子を含むアミノ酸ができる。これらのアミノ酸がさらに分解されると、硫化水素やメチルメルカプタンといった硫黄原子を含む揮発性物質や、アンモニアができる。これらの物質は、いずれも低い濃度でも人間の鼻で感じられる特有のにおいがする。
口臭の多くは、このような主に硫黄を含むガスが口の中で発生することで起こる。
口臭のもとになる主な揮発性硫黄化合物
口臭は、本来自分では感じない?
前述のアンケート調査では、13.5%の人が口臭が強いことを悩んでいた。ただし、口臭を悩んでいる人が、本当に口臭があるとは限らない。
「実は人間が自分の口臭を鼻で感じることは、非常に難しいんです」と亀山さん。「なれるとにおいは感じにくくなります。鼻の中のにおいを感じる部分は体の中で口とつながっていて、非常に近いところにあります。口臭には常にさらされているため、なれてしまってにおいは感じられないはずです」
ところが、自分で口臭を感じたと思う人はかなりいる。
亀山さんらが東京歯科大学千葉歯科医療センターの口臭外来を受診した患者さんを対象に、口臭を意識したきっかけを調べてみたところ、約3分の2は「他の人から指摘された」と回答したが、「自分で気が付いた」「他の人の動作・しぐさから気づいた」という人も少なくなかった。
口臭を意識するようになったきっかけは?
また、口臭外来を受診した人について口臭のもととなる化学物質濃度を調べてみると、硫化水素は9割以上、メチルメルカプタンでは約半数が、人間の鼻で感知できる濃度に達していなかった。官能検査といって、スタッフの鼻で口臭を感じるかどうかを調べてみても、ほぼ同じ結果が出た。つまり、口臭を自覚していても、実質的に口臭がない人がかなりいる。
実際にはない口臭を、なぜ意識するようになるのだろう。前述の調査では、口の中が乾いた感じ(口腔乾燥感)がある人のうち8割くらいに、口臭の自覚症状があった。逆に口腔乾燥感がない人のうち、口臭の自覚症状がある人は半分くらいだった。どうやら口腔乾燥感があると、口臭を自覚しやすくなるようだ。
「口腔乾燥感がある人には、口がネバつく、変な味がする、舌にコケのようなものが付着するなど他の不快感がある人が多くおられました。また、こういう口の中の不快感と口腔乾燥感には、相関関係がありました。どうやら、このような不快感から口の中が乾いていると感じ、口臭があるのではと意識するきっかけになるようです」と亀山さんは説明する。
マスクをしていればにおいは気にならない?
最初に紹介したアンケート調査では、マスクによって「自分の口のにおいが気になるようになった」人が39.4%いた。確かに、マスクを長時間つけているとマスクがにおってくることがある。これは、口臭の影響だろうか。
口の中はもともと高温多湿だが、マスクをつけるといっそう高温多湿になる。また、マスクをつけたままおしゃべりすれば、唾液を含む飛沫がマスクに付く。唾液には、口の中の細菌や、剥がれ落ちた古い細胞が含まれている。
「唾液は本来無臭ですが、唾液中の細菌がエサとなる古い細胞を分解すると、においのもとになる物質が発生します。さらに、温度が高いと唾液中の水分が蒸発して、においのもとが凝縮され、においが強くなります」と亀山さんは説明する。
アンケート調査では、逆に「口臭を気にすることが減った」人も25.4%いた。マスクをつけていれば、口臭が外へ漏れることを防いでくれるのだろうか。
亀山さんによると、「においの分子は非常に小さくマスクを簡単に通り抜けてしまうので、マスクがあってもにおいを防げるとは限りません」とのことだ。
「お互いにマスクをしていれば口臭を感じにくくはなりますが、すべてのにおいを感じなくなるわけではありません」と亀山さんは注意を促す。マスクをつけるからといって、油断は禁物だ。
口臭を防ぐには、朝食をとろう
ところで、口臭はどんなときに強くなりやすいのだろう。
口臭には、生理的なものと病的なものがある。生理的なものは、口臭の主な原因として紹介したように、剥がれ落ちた古い細胞が細菌に分解され、においのもととなる物質が発生するものだ。これは、誰にでも起こる可能性がある。
生理的口臭は、朝起きたときに一番強く、食事、水を飲む、歯みがきなどを行うと口臭レベルが落ちる。だから、起床時に高かった口臭レベルが朝食後にはいったん減り、徐々にまた高くなって、食事をするとまた減るというサイクルを一日の中で繰り返す。
「朝食を抜くと、朝起きたときから昼食を食べるまでに、口臭はどんどん強くなります」と亀山さん。「口臭を防ぐには、朝食をきちんととることも大切です」とのことだ。
朝食を抜くと口臭レベルは高いまま
口臭は唾液の量とも関係がある。試験前などで緊張すると唾液量が減り、口臭が出やすくなる。また、口臭はホルモンバランスでも変動する。女性は月経時にはストレス物質が唾液中に増え、唾液の量も減る。そのため、月経前から月経時には口臭レベルが高くなる。
病的な口臭の原因としては、主に歯周病がある。
「歯茎が腫れている人は、歯科医を受診してきちんと治療してください。私たちが過去に調べたデータでは、歯周病の治療で歯石を除去するだけでも、口臭のレベルは明らかに低下します」と亀山さんは言う。
胃が悪いと口臭があるとよく言われるが、これは事実のようだ。胃のびらん(炎症)がある人は、舌についているコケのようなものが厚く黄色い傾向がある。飲酒や喫煙習慣がある人には特に多く見られることから、このような胃の不調が口臭に関係しているのかもしれない。ただ、胃のにおいが直接口の中に上がってくるということはない。
マウスウォッシュで口臭を減らせるか?
マウスウォッシュのようなケアグッズを使えば、口臭を減らせるだろうか。
市販のマウスウォッシュには、CPC(塩化セチルピリジニウム)という殺菌成分が含まれているものが多い。
「単純にマウスウォッシュだけで口臭が減るとは、考えられません。ただ、歯みがきでしっかり口の中の細菌を落としたあとに、このような強い殺菌効果があるマウスウォッシュを使うと、非常に有効だと思います。舌ブラシのようなもので舌につくコケのようなものをしっかり落とすことも有効です」と亀山さんは紹介する。
明らかに口臭を減らすという成分を含むマウスウォッシュもある。塩化亜鉛は、口臭のもととなる硫化水素やメチルメルカプタンを使用後2時間くらいは減らしたという実験データがある。グルコン酸銅は、使用直後から硫化水素やメチルメルカプタンの量を大きく減らしたというデータもある。口臭をしっかり防ぎたいときは、このような口臭に特化したマウスウォッシュを使うのもいいだろう。ただ、本当に口臭に悩んでいるのなら、口臭外来を一度受診したほうがいい。
「実際に口臭があるかどうかは、自分では分かりません。口臭が強いかもしれないと悩むなら、専門の医療機関を受診してください。大学の付属病院には、口臭を扱う専門外来等がたくさんあるので、そういうところを利用するといいでしょう」(亀山さん)
(文 梅方久仁子、図版 増田真一)
松本歯科大学 歯科保存学講座 教授。松本歯科大学病院 副歯科病院長・息フレッシュ外来主任。1997年東京歯科大学卒業。2012年東京歯科大学准教授。東京歯科大学千葉病院、東京歯科大学水道橋病院などを経て、2019年現職に。
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