日経ナショナル ジオグラフィック社

2021/11/29

「クジラのiPhone」

ヒゲクジラの摂餌量を推定するため、科学者たちはこれまで、近縁種や同程度の大きさの動物を参考にして、体の大きさや活動レベルに応じた代謝ニーズを分析してきた。例えば、生物学者はシャチの摂餌量を測定することで、ザトウクジラやシロナガスクジラの摂餌量を推測していた。

しかしサボカ氏は、「シロナガスクジラやザトウクジラとシャチとでは、行動や生態や生理機能が大きく異なります」と指摘し、こうした初期の研究は「ないよりはマシでしたが、あまり良い推定ではありませんでした」と言う。

サボカ氏のチームは今回の調査で、ザトウクジラ、シロナガスクジラ、ナガスクジラ、ホッキョククジラ、クロミンククジラ、ニタリクジラ、北大西洋に生息するタイセイヨウセミクジラの7種のヒゲクジラに321個のタグを取り付けた。

サボカ氏が特殊な接着剤でクジラの背中に取り付けたタグには、加速度計、磁力計、GPS、光センサー、ジャイロスコープ、カメラなどが搭載されていて、彼はこれを「クジラのiPhone」と呼んでいる。私たちのスマホが1日の歩数を教えてくれるように、「クジラのiPhone」は、クジラが1日に何回、どのくらいの深さまで潜ったかを測定することができる。ヒゲクジラはしばしば、口を開けたまま水中を水平または垂直に突進して餌を食べる「突進採餌」を行うからだ。

今回の研究でタグを取り付けられたザトウクジラが、餌を食べるために水面に姿を現したところ。ザトウクジラの口の中には小さな獲物をこし分ける鯨鬚がある(PHOTOGRAPH BY MATTHEW SAVOCA)

研究チームはドローンを使ってクジラの口の大きさを測定し、クジラが突進採餌を行うときに取り込むことができる水の量を計算した。また、クジラの生息地にいるオキアミの個体密度をソナーを使って測定し、1回の突進採餌で何匹のオキアミをのみ込めるかを調べた。

これらの測定結果を考え合わせると、タグを取り付けられたクジラは毎日体重の5~30%に相当する量のオキアミを食べていることがわかった。従来の推定では、ヒゲクジラが1日に摂取するオキアミの量は体重の5%未満とされていた。

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消えたオキアミの謎