仮想音楽空間「MAISONdes」 若手がコラボ曲続々と
2021年2月に、突如YouTubeに出現した「MAISONdes(メゾン・デ)」。MAISONdesとは、21年2月に生まれた実態をともなわないアーティストであり、新しい形の音楽プロジェクトだ。新進気鋭のアーティストとクリエーターたちを、架空の単身者用アパート「MAISONdes」の住人に見立て、様々なコラボレーション楽曲を発表している。

その場でのみ生まれうる楽曲は"6畳半ポップス"と呼ばれ、21年12月現在、11曲をリリースする。yama、くじら、和ぬか、りりあ。といった入居者は、近年ネットシーンから出てきた話題の面々が並ぶ。
21年5月にリリースした、MAISONdes feat.和ぬか,asmiによる『ヨワネハキ』は、和の情緒漂うキャッチーなサビがTikTokで話題となり、「TikTok流行語大賞2021 ミュージック部門賞」でグランプリを獲得した。
このユニークな仮想音楽空間を立ち上げたのが、通称「管理人」と呼ばれる音楽ディレクターだ。本プロジェクトの出発点となったのは、20年のyamaの大ヒット曲『春を告げる』の冒頭の1節「深夜東京の6畳半」だという。

「1970年代頃に、"4畳半フォーク"と呼ばれるジャンルがはやり、1人暮らしを始めたばかりの若者の孤独に寄り添いました。それを現代に再現したのが6畳半ポップスです。このコンセプトは、『春を告げる』を作った、くじらというアーティストとの会話の中で生まれ、架空のアパートというコンセプトも彼からのアイデアに着想を得て生まれました。アパートの各部屋から様々な楽曲が生まれており、リスナーにはそのどれかを『自分だけの歌』と感じてもらえればと思っています」(MAISONdes管理人、以下同)
同プロジェクトの大きな特徴の1つが、他にはない斬新なコラボレーションだ。現段階で、MAISONdes最大のヒットである『ヨワネハキ』では、現役大学生で覆面アーティストの和ぬかが楽曲を制作し、地元・大阪を拠点に活動するasmiが歌唱を担当。祭り感のあるサウンドに乗せ、キュートな歌声であっけらかんと「ため息ばかりの薄っぺらい人間です」と弱音を吐き続ける。これまで、甘い歌声のラブソングを得意としてきたasmiの新たな魅力が開花した。
「管理人の私がコラボ相手を決めているので、アーティスト自身も思いつかない組み合わせが実現できます。第1弾楽曲の『Hello/Hello』では、yamaさんが挑戦したことのないエモーショナルなギターロックを歌ってもらい、『これまでに聴いたことのない歌声』と話題になりました」
またアーティスト名義をMAISONdesにしていることにも意味があるという。「個々のアーティスト名が前面に出ていないため、普段ならちゅうちょするコラボや楽曲にも挑戦しやすい。それをアーティスト側もメリットと捉えて下さっているようで、"入居"希望者はかなり多いです」。
一貫したテーマで人気獲得
しかしオープン当初は、YouTubeのチャンネル登録者数や再生数は思ったほど振るわなかった。それでも、独創的な組み合わせによるコラボと、「6畳半ポップス」というコンセプトを貫いた。

4月に、YouTubeを中心に活躍するラッパーの堂村璃羽や、変態紳士クラブのGeGらによって、ヒップホップから6畳半ポップスにアプローチした『いえない』を発表。6月には、元ぼくのりりっくのぼうよみとして活躍した、たなかと、人気の歌い手でDUSTCELLのボーカルを務めるEMAによるキラキラしたポップチューン『ダンス・ダンス・ダダ』など、音楽ファンがワクワクする組み合わせで約1カ月に1曲のペースでリリース。ミュージックビデオに使われるイラストも、一貫してNAKAKI PANTZが手掛けるなど、ブランドカラーの統一を図り続けた。
「始めたばかりの頃は、思うような数字が出ずに心が折れそうになりましたが、『誰か1人の曲であればいい』というコンセプトは求められていると信じて、楽曲をリリースし続けたことが結果につながったのかなと。『ヨワネハキ』でチャンネル登録数が1万人になり、その後の6月に出した『ダンス・ダンス・ダダ』の初動がそれまでの3倍に跳ねた。これはいけると手応えを感じました」
"すでに存在している部屋の住人への、だれかからの返信"という名目で、リミックスプロジェクト「Re:シリーズ」も始動。10月に『ダンス・ダンス・ダダ』、12月に『ヨワネハキ』を公開。後者は、Rin音などを手掛けるTaro Ishidaがリミックスを担当するなど、注目のトラックメーカーもMAISONdesに集まってきている。また11月にリリースした、meiyoとPiiによる『ラリー、ラリー』では、入居したアーティストにある仕掛けを施したそうだ。
「TikTokから人気に火がついたmeiyoさんとコラボレーションしたPiiさんは、まだ素性が明かされてない女性アーティストなんです。年明けには彼女の正体に少し近づけるコンテンツが出るのかも……(笑)。このようにいろんな角度から楽しんでもらえる施策を今後も取り入れていきたいです」
今後は、現プロジェクトとは別に、過去曲に着目したMAISONdes「B棟」というプランもあるという。「あまり知られていない過去の名曲を掘り起こし、それを若手アーティストに歌ってもらうみたいなことも考えています」
アーティストの多様な魅力を引き出しながら、多方向へと広がるポテンシャルを存分に秘めたMAISONdes。22年もこのアパートから世間を騒がす歌が生まれそうだ。
(ライター 橘川有子)
[日経エンタテインメント! 2022年2月号の記事を再構成]
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