日経ナショナル ジオグラフィック社

2022/2/28

サンプルリターンへの期待

今のところ科学者たちは、火星にかつて生命は存在していたと結論付けるまでには至っていない。生命の痕跡を示すものはほとんどすべて、まだ知られていない火星の地質学または化学によって説明がつけられるかもしれないためだ。

火星でどんなことが起こっているのか、生物とは関係のない現象がどのようにして生物の痕跡を装うことができるのかなど、まだわかっていないことが多すぎる。

火星における生命探査の次なるステップは、火星の一部を地球の研究室へ持ち帰り、人類の英知を結集した最新鋭の機器を使ってそれを調べることだと、科学者たちは言う。そのためにパーシビアランスは現在、数十億年前の微生物の痕跡が含まれていそうなサンプルをせっせと集めている。

その結果がどうであれ、それはここ地球における生命の起源についても何か重要な手がかりを与えてくれるに違いない。

「火星と地球の古代史は非常によく似ています。それなのに、どこでどう間違って、2つの惑星はこれほどまでに異なる進化の過程をたどったのでしょう」と、米フロリダ大学の宇宙生物学者エイミー・ウィリアムズ氏は言う。「もし火星に生命がいないのだとしたら、それはなぜなのでしょう。何が変わったのでしょうか。もしいたとしたら、それはどうなったのでしょう」

私たちにとっては別世界

とはいえ、たとえサンプルを地球へ持ち帰ったとしても、それですべて解決されるとは限らない。1996年に南極のアラン・ヒルズで、1万3000年前に火星から飛来したとされる隕石が発見され、そこから41億年前の微生物の化石らしきものが見つかったと発表された。

ところが最近になって、これは生物由来ではなく、地下の液体が岩や鉱物と作用した時に生じる通常の化学反応によるものであるという研究結果が出された。この論文は、1月13日付で学術誌「サイエンス」に発表された。

「だからといって、あの隕石に火星の生物が全く含まれていないかといえば、それもまた証明することはできません。もし何らかの有機物が含まれていたとしても、地球の有機物にとって当たり前のものを呈していないというだけで、もしかすると完全に異なる何かがあるのかもしれません。調査はまだ終わっていません」と、研究を率いたカーネギー科学研究所のアンドリュー・スティール氏は言う。

火星のメタンや有機分子、岩を覆う被膜もすべて、同様の地質学的反応によるものなのだろうか。その可能性は十分にあると、宇宙生物学者らは言う。火星は地球とは別の惑星であり、独自の化学反応と地質を有している。いくら見覚えがある風景が広がっていても、やはり私たちにとっては別世界なのだ。

(文 NADIA DRAKE、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2022年2月2日付]