しかし、まさにそうした農村の苦労があるからこそ、今が高美古を新たに「天文村」として売り出すのに最適な時期だというのが、民宿の経営者ウォンさんの主張だ。
「このアイデアからお金が入ってくることを知れば、地元の人たちも関心を持ってくれるでしょう」とウォンさんは言う。

村の光を統制するアイデアとしては例えば、動物や人間による農作物の盗難防止に、農家の人々にビデオカメラを提供するというものがある。夜中に畑を撮影できる場所に設置してもらい、照明ではなく監視カメラを使えば、天体観測を邪魔しないですむからだ。
雲南省の村の夜空は衝撃的
夜の暗闇が、どこにでも電気が通っているこの地球において貴重であることは間違いない。
国際ダークスカイ協会によると、「10人中8人が光害に汚染された夜空の下で暮らして」おり、「事実上、すべての既知種が光害による影響を受けて」いるという。過去100年間における人工照明の爆発的な普及は、膨大な数の睡眠障害を引き起こしている。光を頼りに海へ向かうウミガメの子どもたちは、人間が創り出した輝きのせいで方向を見失い、何世代にもわたって死んでいる。世界中の都市に住む何十億人もの子どもたちは、天の川を見るという圧倒されるような経験を持たない。
高美古は、天文マニアに人気の「暗い夜空がある場所」のリストには入っていない(世界で最も暗い夜空は、ある天体物理学研究所によると、西アフリカのカナリア諸島で見られるという)。
それでも、この雲南省の村で見上げる夜空は衝撃的だ。
麗江の市街地から山道を39キロたどったところにある高美古の星は、まるで巨大なザルを通して降り注ぐ太陽の光のように輝いている。その色は地球の青とはまるで違う。鋼のように冷たい青、藤色、桃色、マスタードイエロー。銀河の帯は明るい道のように弧を描いて、森に覆われた冷たい地平線へと伸び、スギやマツを暗いシルエットに変える。流れ星が星座の間を滑り降り、緑色の軌跡を残していく。

地元のシャーマン(ナシ族の言葉で「トンバ」と呼ばれる)であるヤン・ホン・チャンさんは、今のところ、村が定める規則に従って夜にカーテンを閉めることはしていない。しかし、天体観測を目当てに人が来るようになれば従うという。
「われわれの世界には、まず星がありました。ほかのものと同じように、星は卵から生まれました」とヤンさんは言い、わら紙に墨で次々と、ナシ族に伝わる古代象形文字の太陽、月、星などを書いてみせる。「世界の人たちがここへやってきて星を見るというのは、すばらしいアイデアだと思います」
(文・写真 PAUL SALOPEK、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2022年3月4日付]