日経エンタテインメント!

オリコンチャートで1位だったINIはCD売り上げが50.8万枚、2位のBE:FIRSTは19.4万枚と大きな差がついていたものの、Billboardでは順位が逆転。その結果は今のチャート指標の課題を改めて浮き彫りにする形になった。「ファンが自ら進んでCDを大量買いすることに正当性があって幸せな行動なら否定はしないが、問題はファンの競争心や射幸心を煽(あお)ることにある」とSKY-HIは言う。

「僕自身がリスペクトする任天堂元社長の岩田(聡)さんに倣っていることなんです。スマホの普及によってソーシャルゲームで高額の利益を得る企業が増え、任天堂の株価が落ちていくなか、岩田さんは『競争心や射幸心をあおって一時的な売り上げを上げるビジネスモデルは信頼を勝ち得ることにはならないので、長期的に見たら損害である』と。『信頼を大事にしたいから今の利益は取らない』ではなく、『損害である』と言い切ったのが岩田さんらしいし、本当に美しく、僕自身もそうありたいと思っています。

BE:FIRSTのデビューのタイミングで、ハフポストに『ファンの射幸心や競争心をあおっても最終的にはあまり幸せになれない』という僕の記事が出たんですよ(11月4日)。その時に『私たちはファンだからCDをたくさん買いたいのに、それを不健康とか言われた』という反感をごく一部の人からは買いました。もちろん本人がやりたいようにやって、それで幸せなら誰がどう言うことでもないですし、『健康的』の範疇(はんちゅう)かもしれない。収集欲を満たすのも素敵だと思いますし、それに見合うクリエイティブをアートワークや特典で付けていきたいとも思います。でも、『応援するためにたくさん買わなくちゃ』という義務感で続ける応援の形は健康的ではないです。応援疲れしてしまうし、経済的な理由で購入ができない方が肩身の狭い思いをするようなことがあってはいけません。応援する・されるの力関係もおかしくなってしまう。そこに力関係があること自体が不健全だし、そもそも幸せのためにやっているエンタテインメントが、それを義務にさせるのは本末転倒だと思います。

伝え方が難しいんですよね。正直に話すほど、どこかのビジネスモデルや誰かの応援の仕方の否定につながり、不快に感じたり、傷つく人が出てきてしまう。どう伝えれば僕が傷つける人が最低限で済むのかということを感じる部分ではあります」

MVの再生回数も圧倒的、ラジオのオンエアも驚異的な数字を残しているBTSですら、CDの販売数や音源のダウンロード数が極めて多いことによって、今なお「ファンによる不正なチャート戦略ではないか」と議論が繰り広げられることがある。忠誠心の強いファンを持つグループとそのファンにとって不可避なこの議論を、SKY-HIは当事者としてどう見ているのか。

「そういった議論が生まれること自体は健全だと思いますし、どの立場の発言もアーティストとしての価値を毀損するものでない限り良いものだとも思います。結局、音楽を適切に評論したい人にとっては、『CDを積む』という行為でできてしまう順位はチャートの中の『ノイズ』になってしまうんです。ダウンロード数やMV(ミュージックビデオ)の再生回数に比してCDの売り上げだけが突出していることは健全ではないですよね。僕は少なくともBE:FIRSTのファンの母数は分かっていて、事前にCDを予約するコアなファンも、複数枚買う人も、1枚だけの人もたくさんいました。あらゆる応援の仕方も含めて、今回はそれがとてもきれいなバランスだったと認識しています」

(次回へ続く)

SKY-HI(日高光啓)
『八面六臂(はちめんろっぴ)』
 1986年12月12日生まれ、千葉県出身。ラッパー、トラックメイカー、プロデューサーなど、幅広く活動する。2005年AAAのメンバーとしてデビュー。同時期からSKY-HIとしてソロ活動を開始。20年にBMSGを設立し、代表取締役CEOに就任。9月1日から『Dive To World feat. Takuya Yamanaka(THE ORAL CIGARETTES)』配信中。10月27日にリリースした、約3年ぶりのオリジナルアルバム『八面六臂(はちめんろっぴ)』には、「THE FIRST」に参加し、現在BMSGに所属するAile The ShotaやRUI、REIKOらをフィーチャリングした楽曲も収録している。

【過去の記事一覧と「BE:FIRST」についてはこちら

(ライター 横田直子)

[日経エンタテインメント! 2022年1月号の記事を再構成]