SKY-HI 「健康的なファン活動」と音楽チャート
連載 SKY-HI「Be myself, for ourselves」(32)
今回から『日経エンタテインメント!』2022年1月号の掲載記事をアップデートしたうえで、2回にわたってお届けする。話を聞いたのは「BE:FIRST」のデビュー直後。チャート1位を目指し、CD購入をはじめ、ストリーミングやMVの再生回数を増やすなどの活動は、熱狂的なファンダムによく見られる光景だが、果たして事務所やレーベル側はその行為に何を感じるのか。それがこの回、率直に聞きたかったことだ。[「BE:FIRST」や「THE FIRST」についてはこちら]

11月3日、「THE FIRST」から誕生した7人組ダンス&ボーカルグループBE:FIRSTが、シングル『Gifted.』でデビュー。同日には『PRODUCE 101 JAPAN SEASON2』から誕生した11人組ボーイズグループ「INI」もデビューし、そのチャートの行方は大いに注目を浴びていた。結果、オリコン週間チャートではINIが1位。しかし、Billboard JAPAN総合ソング・チャート「JAPAN HOT100」ではBE:FIRSTが1位を獲得し、ダウンロード、ストリーミング、ラジオのオンエア回数、動画再生数で4冠を達成した。BE:FIRSTのデビュー前から「Billboardで1位を取れたらうれしい」と話していたSKY-HIは、この結果をどう見たのか。
「ここ数年で、これほどチャートの順位が興味を持たれたことはあまりなかったですからね。1位が分かったときは素直にうれしかったです。
今の時代、有益な指標となっているのはBillboard。Billboardはここ数年、CDの売り上げやツイート数のポイント換算の指数を年に複数回調整することで見直しを重ねているんです。より公平性の高いチャートであろうとしている。だから、ここで1位を取れるといいなと思っていましたね。
もちろん、チャートを絶対的なものとして考えるのもいけないと思っています。チャートを絶対的なものにすることと、チャートや数字から逃げないこととは、イコールではありません。結局、いいものを作って、届いた人が『いいものが届いた』って喜んで、そういう人の数を増やしていくことが1番大事。ただ、チャート1位を取れたから動き始めたことはたくさんあったし、全てがいい方向にいっていると感じます。本当に『神に愛された1位』だなと。
もしかしたら、米Billboardの『Hot Trending Songs』にランクインしたほうが大きかったのかなあ。BTSやTWICEなど、名だたるK-POPアーティストとBE:FIRSTが肩を並べている姿はうれしかったですね(『Hot Trending Songs』は、Twitter上での音楽関連の世界的トレンドや会話をリアルタイムで追跡したチャート。過去24時間と直近7日間のデータを見ることができ、BE:FIRST『Gifted.』は11月15日付以降、直近7日間チャートでトップ10入りを続け、最高位3位。24時間チャートでは最高位1位を獲得した)。
結局チャートって『世の中にその音楽がどれだけ届いたか』を示す指標だと思うんです。お金のために作る音楽でも、誰のために作る音楽でも、ロックでもヒップホップでもよくて、世の中に存在するすべての音楽は美しいと僕は思っているんですけど、要はいろいろな音楽があるなかで、何が1番世の中に届いているのか。それを示す指標が、音楽を好んで聴く人以外のためにもあるべきだと思うんです。ヴァイナル(レコード)やCDの時代は"記録物"としての売り上げがその指標だった。
でも、インターネットが出てきて以降、実際はそこだけを見てもあまり意味がない。一方で、1人がCDをまとめ買いすることで『チャートハック』できてしまう現状も問題です。2010年代前半のチャートって、本当に歪(いびつ)だったと思うんですよね。特定の人がCDの購入を頑張ることでチャートの順位が伸びる現象は、局所的には(ファンの熱量が結果を生む行為が)美しく見えるけれども、やっぱり『世の中にどれだけ届いたか』を見るものとしてのチャートの意義がなくなってしまうのは問題です」
オリコンチャートで1位だったINIはCD売り上げが50.8万枚、2位のBE:FIRSTは19.4万枚と大きな差がついていたものの、Billboardでは順位が逆転。その結果は今のチャート指標の課題を改めて浮き彫りにする形になった。「ファンが自ら進んでCDを大量買いすることに正当性があって幸せな行動なら否定はしないが、問題はファンの競争心や射幸心を煽(あお)ることにある」とSKY-HIは言う。
「僕自身がリスペクトする任天堂元社長の岩田(聡)さんに倣っていることなんです。スマホの普及によってソーシャルゲームで高額の利益を得る企業が増え、任天堂の株価が落ちていくなか、岩田さんは『競争心や射幸心をあおって一時的な売り上げを上げるビジネスモデルは信頼を勝ち得ることにはならないので、長期的に見たら損害である』と。『信頼を大事にしたいから今の利益は取らない』ではなく、『損害である』と言い切ったのが岩田さんらしいし、本当に美しく、僕自身もそうありたいと思っています。
BE:FIRSTのデビューのタイミングで、ハフポストに『ファンの射幸心や競争心をあおっても最終的にはあまり幸せになれない』という僕の記事が出たんですよ(11月4日)。その時に『私たちはファンだからCDをたくさん買いたいのに、それを不健康とか言われた』という反感をごく一部の人からは買いました。もちろん本人がやりたいようにやって、それで幸せなら誰がどう言うことでもないですし、『健康的』の範疇(はんちゅう)かもしれない。収集欲を満たすのも素敵だと思いますし、それに見合うクリエイティブをアートワークや特典で付けていきたいとも思います。でも、『応援するためにたくさん買わなくちゃ』という義務感で続ける応援の形は健康的ではないです。応援疲れしてしまうし、経済的な理由で購入ができない方が肩身の狭い思いをするようなことがあってはいけません。応援する・されるの力関係もおかしくなってしまう。そこに力関係があること自体が不健全だし、そもそも幸せのためにやっているエンタテインメントが、それを義務にさせるのは本末転倒だと思います。
伝え方が難しいんですよね。正直に話すほど、どこかのビジネスモデルや誰かの応援の仕方の否定につながり、不快に感じたり、傷つく人が出てきてしまう。どう伝えれば僕が傷つける人が最低限で済むのかということを感じる部分ではあります」
MVの再生回数も圧倒的、ラジオのオンエアも驚異的な数字を残しているBTSですら、CDの販売数や音源のダウンロード数が極めて多いことによって、今なお「ファンによる不正なチャート戦略ではないか」と議論が繰り広げられることがある。忠誠心の強いファンを持つグループとそのファンにとって不可避なこの議論を、SKY-HIは当事者としてどう見ているのか。
「そういった議論が生まれること自体は健全だと思いますし、どの立場の発言もアーティストとしての価値を毀損するものでない限り良いものだとも思います。結局、音楽を適切に評論したい人にとっては、『CDを積む』という行為でできてしまう順位はチャートの中の『ノイズ』になってしまうんです。ダウンロード数やMV(ミュージックビデオ)の再生回数に比してCDの売り上げだけが突出していることは健全ではないですよね。僕は少なくともBE:FIRSTのファンの母数は分かっていて、事前にCDを予約するコアなファンも、複数枚買う人も、1枚だけの人もたくさんいました。あらゆる応援の仕方も含めて、今回はそれがとてもきれいなバランスだったと認識しています」
(次回へ続く)

【過去の記事一覧と「BE:FIRST」についてはこちら】
(ライター 横田直子)
[日経エンタテインメント! 2022年1月号の記事を再構成]
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