2022/1/24

「稚魚にとって環境が理想的な状況になるように、魚たちは洪水パルスの開始とともに移動するよう進化してきました。この流況の変化は、そのタイミングをズラしてしまう恐れがあります」と、米ネバダ大学リノ校の保全生態学者で、ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラーであるアーロン・コーニング氏は言う。同氏は、ホーガン氏とともに、メコン川下流域の生物多様性と生態系の健全性を高める「Wonders of the Mekong」という米国際開発庁のプロジェクトに取り組んでいる。

「ダムは現在のメコン川の魚たちに影響を与えるだけでなく、その未来にも影響を与えるのです」

絶滅はこのようにして起こる

「Biological Conservation」の論文によれば、もし3400基ものダムが建設されると、100キロを超える600以上の川で自由な移動が制限されると言う。大型の淡水魚の多くは回遊性が高く、流れのある川を移動できることは生存に不可欠だ。そのひとつがミャンマーのイラワジ川で、ここには国際自然保護連合の絶滅危惧種(endangered)に指定されているカワゴンドウや、近絶滅種(critically endangered)のガンジスザメが生息している。

世界で最も生物種が豊富なアマゾン川流域でも、さまざまな支流に400を超える水力発電用ダムが計画されている。特に懸念されるのは、最近絶滅危惧種に指定されたコビトイルカと大型のアマゾンカワイルカの2種だ。

カワイルカは多くの大型魚のように回遊はしないが、依存している餌は回遊魚だ。また、ダムによってイルカの群れが小さくなり、近親交配が進んで遺伝的多様性が低下する恐れもある。

ブラジルのジュイス・デ・フォラにある研究団体「Aqualie Institute」の生態学者マリアナ・パショアリーニ氏は、06年に中国の長江で、個体数の維持・回復能力を失った「機能的絶滅」が宣言されたヨウスコウカワイルカのように「これらのダムがすべて建設されれば、ここでもアジアと同じ運命が待っているかもしれません」と話す。

ホーガン氏は、メコンオオナマズやその他の巨大魚が絶滅するのを見届けずに済むことを望んでいると語るが、希望の光もある。例えば、カンボジアは最近、メコン川主流での新たなダム建設を10年間モラトリアム(一時停止)にすることを発表した。

しかし、ホーガン氏は「そういうこともありながら、絶滅は起こるのです」と警告する。「今後、生物多様性の高い地域にダムが建設されれば、さらに悪化するでしょう」

(文 STEFAN LOVGREN、訳 桜木敬子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年12月27日付]