2022/1/24
2019年、タイ北東部のメコン川で極端に水量が少ないところを航行する漁師。ラオスの上流にあるダムと干ばつが原因で、流量が減少している( PHOTOGRAPH BY LILLIAN SUWANRUMPHA/AFP VIA GETTY IMAGES)

消える巨大魚

淡水の「巨大動物(メガファウナ)」は、平均体重が30キロを超える種と緩やかに定義されている。地球上で最も絶滅の危機にひんしている動物の一群だ。19年に学術誌「Global Change Biology」に掲載された研究によると、世界の巨大淡水生物の数は1970年以降90%近く減っており、これは陸上や海洋における減少率の2倍に相当するという。

特に北半球のチョウザメ、サケ、オオナマズなどの巨大魚は、乱獲、汚染、ダムなどが原因で、さらに高い減少率を記録している。

6カ国を流れるメコン川は、世界で最も多くの種類の巨大魚が生息する河川だった。しかし現在、そのほとんどが絶滅の危機にひんしている。例えばホーガン氏は、15年以降、メコンオオナマズを見ていないと言う。

中国はメコン川の上流で多数のダムを建設しているが、そこは多くの巨大魚にとって産卵場所ではない。それより下流域は、政治のもつれや、漁業の規模を縮小する保護活動などにより、メコン川主流における開発計画は食い止められていた。

また、メコン川本流ではすでに2つの巨大ダムが稼働しているが、これらは生物への影響が少ないダムだ。

その1つ、ドンサホン・ダムはメコン川が分岐する場所に建設されており、魚は別の水路を通れるようになっている。もう1つは、タイの資金で建設されたサヤブリ・ダムで、高度な魚道の設置など、魚がダムを迂回できるようにするために3億ドル以上が費やされた。

そのため自然保護論者は「今後、建設されるダムはサヤブリのような投資が基準となり、すべてのダムがサヤブリと同程度、またはそれを上回る設備投資をする」と期待していたと、オーストラリア、シドニーのチャールズ・スタート大学でメコン川のダムの影響を研究している淡水魚生態学者、リー・バウムガートナー氏は言う。「しかし、ナムサンはそうはなりません。全くもって」

回遊できない魚たち

ダムが大型魚に害を及ぼす最もわかりやすい例は、おそらく中国におけるハシナガチョウザメだろう。研究者は19年に、体長約7メートルまで成長するこの古代種が絶滅したと宣言した。乱獲も問題になってはいたが、最終的に絶滅を招いたのは、1980年代に長江に建設された葛州ダムだと科学者たちは結論づけた。上流の唯一の産卵場からチョウザメが切り離されたせいだった。

「一般的な影響評価は、いまだに建設現場周辺の小さな緩衝地帯の分析に重点を置いています」と、カナダ、マギル大学の地理学者で、今回の研究の共著者であるギュンター・グリル氏は言う。必要なのは、地域にわたる規模で巨大動物を傷つけないダムの設置場所を探すという、政府によるより大きな努力だと同氏は述べる。

ダムは魚の移動を妨げるだけでなく、回遊魚が餌や産卵の手がかりとする水文学的条件も変えてしまう。メコン川の水系は、雨期になると水面が通常より3メートルも上昇する。川と氾濫原の物質循環をうながすこうした周期的な現象は「洪水パルス」と呼ばれる。しかし、米国の研究機関であるスティムソン・センターの衛星データによると、近年、気候変動によって悪化した地域的な干ばつと、中国が上流のダムからの水を差し止めたことにより、この洪水パルスが途絶えている。

そのデータによると、過去3年間、メコン川水系全体の水位が歴史的な低水位を記録していることもわかっている。

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絶滅はこのようにして起こる