2022/1/22

未知の宇宙

一方、シカゴ大学のウェンディ・フリードマン氏は、変光星ではなく赤色巨星を使って独自のはしごを構築した結果、前出の2つの測定値の中間である69.8 km/s/Mpcという数値をはじき出している。

計算は慎重に行ったが、それでも未知のエラーが分析に影響を与えている可能性はあると断っている。また、ある程度の不確定要素は避けることができない。たとえば、天の川銀河の近くにあって直接測定可能な銀河は3つしかなく、フリードマン氏のはしごはこの3つのみをベースにして構築されている。

「3つとは少ない数ですが、自然が私たちに与えてくれたものです」と、フリードマン氏は言う。

Pantheon+ と SHoES による67の分析には、セファイド変光星とIa型超新星にフリードマン氏の赤色巨星を加えたシナリオも含まれている。そのケースではハッブル定数の推定値はわずかに下がったが、対立が完全に解消されることはなかった。

もしハッブル対立が、物理的現実を反映しているのだとすれば、それを説明するには宇宙の基本的な成分にもう一つ何かを加える必要が出てくる。

その有力候補の一つに、「初期ダークエネルギー」と呼ばれる理論がある。これは、ビッグバンから5万年後に、ダークエネルギーが急増した時期が一時的にあったと提唱している。原理上は、それで宇宙論の標準モデルにあまり手を加えることなく初期宇宙の膨張速度を変化させることができ、ハッブル対立も解消されるという。

だが、そうなると宇宙の推定年齢を現在の138億年から約130億年に短縮しなければならなくなる。

今のところ、初期ダークエネルギーを証明する決定的な証拠はないが、それを示唆する分析はいくつか出てきている。2021年9月に、宇宙マイクロ波背景放射を測定するチリのアタカマ宇宙論望遠鏡が、初期ダークエネルギーを含めたモデルの方が、標準的な宇宙論モデルよりもそのデータによく適合すると発表した。しかし、プランク望遠鏡のデータはまた別の結果を出しているため、今後さらなる観測が必要とされる。

(文 MICHAEL GRESHKO、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年12月22日付]