アニサキスのない魚、毒のないフグも可能?

――後藤准教授「養殖なら餌を冷凍餌や人工飼料にすることで、寄生虫アニサキスのない『サバの刺し身』も味わえますよ。唐津市と九州大学の共同研究により誕生した『唐津Qサバ』など、最近では各地でサバの養殖が始まっています。養殖では、餌の管理で猛毒テトロドトキシンのないフグも実現できるのです」

寄生虫「アニサキス」で苦しんだ経験のある人もいるだろう。サバを筆頭にサケ、アジ、サンマ、カツオ、イワシ、イカなどに寄生するアニサキス。加熱や冷凍により死滅させることができるが、生や不十分な冷凍・加熱で食べた時に食中毒を引き起こすことで知られている。生きたまま人間の体内に入り込むと、胃壁や腸壁にかみつき、激痛を起こすのだ。どうやら養殖技術の向上で、おいしい刺し身を安全に食べることができるようになったらしい。

ただ、「養殖」というと「あまり大きく育たないのではないか」と思う人もいるかもしれない。

――後藤准教授「そういう印象があるなら、大きな誤解です。養殖では管理しながら育てられるので、逆に好みの大きさにすることができるのです。実際、私たちの愛媛大学ではスマ(愛媛県南予が北限の亜熱帯に生息する小型のマグロ類)の養殖を行っていますが、産卵時期を変えることで、出荷サイズをコントロールできる技術を作り上げています」

スマはマグロの近縁種で、養殖は通年きめ細かな脂がのっているという。

大きさによって変わる魚の魅力とは何だろうか?

――後藤准教授「魚は大きさによって味も変わります。例えば、スマを若い頃に刺し身にすれば、淡紅色で爽やかな味。月齢が増えて大きくなると、深紅色に変化し味わいも深くなります。餌の工夫で、体に良いとされる脂たっぷりの大きさの魚も育てられるのです」

スマの刺し身。

養殖魚の餌に心配な添加物を入れて無理やり太らせるようなことはないのだろうか。

――後藤准教授「養殖魚の餌は国で定められている基準がありますので、なんでもかんでも餌に入れられるわけではありません。畜産や家禽(かきん)と同じですよ」

「養殖魚」は限られた環境の中で育っているので、運動不足で筋肉の締まりがよくないのではないかというイメージもある。

――後藤准教授「魚にはエラを動かして呼吸する魚と、マグロやスマ、サンマのように泳ぎながらエラに水を送って呼吸をする魚に分けられます。そのため、養殖でもその魚に合わせて健康維持のための運動環境を整えていると考えて良いです。イメージとしては、放牧されている牛や豚。決められたスペースで過ごしているだけで、ストレスを与える環境ではないと考えてください」

「魚」というと天然魚のイメージが強いが、養殖技術の向上で養殖魚も魚のうまみを楽しむための大きな選択肢になってきたようだ。

――後藤准教授「そもそも、魚本来のうまみを楽しめないと栄養豊富な魚が苦手になってしまうかもしれませんね。天然魚は、季節によっては脂がのらず味が落ちる時期があります。でも養殖魚の場合、産卵期などの痩せてしまうような時期には販売制限をして、基本的には良い状態の魚しか販売しませんし、餌飼料の配合によって脂がのるようにもできますので、季節を問わず安定したおいしさを楽しむことができます」

考えてみれば、ウナギのほとんどが川でとれた天然の稚魚を人間の手で育てた「養殖魚」だ。ウナギは一般に受け入れられているのに、なぜ他の魚だとなじみが薄いのだろうか?

――後藤准教授「魚の養殖は畜産に比べて歴史が浅いため、まだまだ知られていないことが多いのかもしれませんね。気になるようでしたら、養殖企業のホームページを見てください。企業ごとに凝らしている工夫や環境に配慮した取り組み、安心安全な生産状況や最新情報をチェックすることができますので、安心できると思いますよ」

魚のうまみを楽しむための取り組みは年々向上しているようだ。「天然」「養殖」両輪で魚の脂肪を楽しみながら、生活習慣病のリスクを下げたいものだ。

後藤理恵さん
愛媛大学南予水産研究センター准教授。生命科学研究部門 魚類繁殖生理学。北海道大学大学院水産科学研究科博士課程修了。メリーランド工科大学生物工学研究所 リサーチアソシエイト。北海道大学人材育成本部女性研究者支援室 特任准教授。現在、生物系特定産業技術研究支援センター(生研支援センター)の「イノベーション創出強化研究推進事業」の支援を受けて、小型マグロ類スマの品質に関する研究開発を進めている。
結城未来
エッセイスト・フリーアナウンサー。テレビ番組の司会やリポーターとして活躍。一方でインテリアコーディネーター、照明コンサルタント、色彩コーディネーターなどの資格を生かし、灯りナビゲーター、健康ジャーナリストとして講演会や執筆活動も実施している。農林水産省水産政策審議会特別委員でもある。

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