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もう1曲は『ベルサイユのばら』から『愛あればこそ』をデュエットさせていただきました。初風さんは、少女のような、かわいらしいところをずっと持ち続けている人で、歌うとそれがいっそう伝わってきました。「メインのメロディーを歌ってくださいね。僕がハモるので」と言っていたのですが、初風さんは自然とハモってしまうんです。僕が1人でメロディーを歌うはずだったところも、後を追うようにハモってくださいました。きっと娘役として、ずっとそうやってハモってきたんだなと感じました。初風さんに寄り添われて、一緒に歌えたのがとてもうれしかったですね。

井上芳雄と初風諄(写真提供:東宝演劇部)

こんな日が来るなんて思わなかった

その後、僕はソロで『エリザベート』から『愛と死の輪舞』を歌いました。僕は見えなかったのですが、初風さんはずっとうれしそうに後ろから見守っていたよ、と後で周りの方に聞きました。初風さんはトークでも、「こんな日が来るなんて思わなかった」と何回もおっしゃっていました。本当に愛情豊かな方なのだと思います。

初風さんは、コロナ禍になる前までは僕の舞台を毎回見に来てくださっていました。そのつど、「大人っぽくなったわね」とか「今回はちょっと今までにない感じね」と感想をおっしゃってくれて、本当にずっと見守ってくださっています。なので今回の『レジェンド~』は、今までとは違った感じでした。それは幸せなことだし、舞台のよさでもあると思うのです。舞台って足を運ぶ文化なので、公演があれば楽屋などでも会えたし、だからこそ育めた関係なのだと思います。コロナ禍になってなかなか人と会えなくなった今は、それが余計に愛おしく思えます。そんなふうに家族のようなお付き合いができる人に出会えたのは舞台の世界ならではで、この仕事のすてきなところだとあらためて実感します。

『夢をかける』 井上芳雄・著
 ミュージカルを中心に様々な舞台で活躍する一方、歌手やドラマなど多岐にわたるジャンルで活動する井上芳雄のデビュー20周年記念出版。NIKKEI STYLEエンタメ!チャンネルで月2回連載中の「井上芳雄 エンタメ通信」を初めて単行本化。2017年7月から2020年11月まで約3年半のコラムを「ショー・マスト・ゴー・オン」「ミュージカル」「ストレートプレイ」「歌手」「新ジャンル」「レジェンド」というテーマ別に再構成して、書き下ろしを加えました。特に2020年は、コロナ禍で演劇界は大きな打撃を受けました。その逆境のなかでデビュー20周年イヤーを迎えた井上が、何を思い、どんな日々を送り、未来に何を残そうとしているのか。明日への希望や勇気が詰まった1冊です。
(日経BP/2970円・税込み)
井上芳雄
 1979年7月6日生まれ。福岡県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。大学在学中の2000年に、ミュージカル『エリザベート』の皇太子ルドルフ役でデビュー。以降、ミュージカル、ストレートプレイの舞台を中心に活躍。CD制作、コンサートなどの音楽活動にも取り組む一方、テレビ、映画など映像にも活動の幅を広げている。著書に『ミュージカル俳優という仕事』(日経BP)、『夢をかける』(日経BP)。

「井上芳雄 エンタメ通信」は毎月第1、第3土曜に掲載。第110回は2月19日(土)の予定です。


夢をかける

著者 : 井上芳雄
出版 : 日経BP
価格 : 2,970 円(税込み)