北半球と南半球の差
タニスの魚に関する研究は、今回の論文だけではない。デパルマ氏が率いる別のチームが、小惑星が衝突した季節について独自に分析し、21年12月8日付で学術誌「Scientific Reports」に論文を発表している。
2本の論文は、異なる化石について、異なる手法で分析を行っているが、ほぼ同様の結論に達している。デパルマ氏の分析結果は、小惑星が春か夏に衝突したことを示唆しており、衝突時期を春と特定しているデュアリング氏の発見と食い違わない。
「独立の研究と分析が行われるのは良いことです。これらのプロジェクトがお互いを補完しあい、先史時代の世界に関する理解を深められたことをうれしく思っています」と、米フロリダ・アトランティック大学の教員で英マンチェスター大学の博士課程に在籍するデパルマ氏は電子メールでコメントしている。
ネイチャーの論文を執筆した研究者たちは、今回のデータが、白亜紀末の大絶滅のさらなる分析につながることを期待している。例えば、南半球のいくつかの地点からは、チクシュルーブ小惑星の衝突後、南半球が北半球の約2倍の速さで回復したことを示唆する形跡が見つかっている。こうした形跡は、衝突があった季節にどのくらい影響されるのだろうか?
そのヒントは、南半球の化石記録に隠されているのかもしれない。南半球の化石は、北半球に比べて研究が進んでいない。「データが不足している国々にもっと資金を提供することができれば、南半球は宝の山だと思います」とデュアリング氏は言う。「(北半球と南半球には)大きなギャップがあるのです」
一方、米スミソニアン国立自然史博物館のカーク・ジョンソン館長は、タニスの魚の化石が季節の形跡を示しているのは確かだが、6600万年前の地球は現在ほど季節変化が大きくなかったことを忘れてはならないと指摘する。当時の南極には氷冠はなく、落葉樹林が広がっていた。そう考えると、小惑星の衝突直後に南半球の動植物がどれほど有利だったかは疑問だという。
「爆弾が落ちてくるなら、屋根の修理をしているときよりも防空壕に入っているときのほうがいいという話でしょう」と、ヘルクリーク累層を専門とする古生物学者のジョンソン氏は言う。「ただ、このような主張をする人々は、白亜紀には季節変動がどれほど乏しかったかを考慮していないと思います」
ジョンソン氏は、今後の研究によってこの説を検証できると考えている。氏らは、タニスを基準として、ヘルクリーク累層の他の場所を見直し、恐竜が死んだ日の様子を詳細に保存している同様の堆積物がないかどうかを探している。
「今回のタニスの発見は非常に重要です。私たちが考えもしなかったような窓が開かれたのですから」とジョンソン氏は言う。
(文 MICHAEL GRESHKO、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2022年2月26日付]