
政府は11月19日に経済対策をまとめました。岸田文雄首相は「成長と分配の好循環」を掲げ、分配強化策として介護職員や保育士、看護師など、いわゆるエッセンシャルワーカーの待遇改善を盛り込みました。新型コロナウイルス感染拡大下での貢献に報いると同時に、賃金アップで人手不足懸念の解消を目指します。
「独自に処遇改善しているが、公費で助成してもらえれば業界全体で保育士希望者の増加が見込める」と、保育大手JPホールディングスの広報担当者は期待します。コロナ下で在宅勤務が増え、生み控えの動きも広がったため、足元の保育需要は一時期より落ち着いていますが、保育士不足は変わりません。有効求人倍率は2.29倍(2021年7月)で、全産業平均のおよそ2倍です。同社が運営する認可保育所などの中には、施設規模に余裕があるにもかかわらず、保育士が手当てできないため受け入れを制限している施設もあるそうです。
賃金構造基本統計調査によれば20年の平均月収は、介護職員29.3万円、保育士30.3万円で全産業平均35.2万円を下回ります。政府は、介護職員や保育士は現行収入の3%程度に当たる月額9000円、看護師は同1%程度の4000円の引き上げで、待遇改善を目指します。
ただ、問題はその先です。介護や保育、医療は暮らしに不可欠な基盤です。安定的に運営できるよう、公費助成する一方で提供価格を公的に定めています。恒常的に待遇改善するには、公定価格を見直し人件費の財源を確保しなくてはなりません。政府は公的価格評価検討委員会を11月9日に立ち上げ、年内に中間取りまとめをする予定です。
公定価格を引き上げれば利用者負担が重くなります。公費を増額する手もありますが、その財源も元を正せば税金。国民負担が増えることは同じです。ニッセイ基礎研究所の清水仁志研究員は「公定価格引き上げで利用者負担が増えれば、世帯の可処分所得が減る恐れもあり、成長と分配の好循環につながるか不透明です」と指摘します。
SOMPOケア(東京・品川)は来年4月、介護スタッフ約7000人を対象に独自の待遇改善を計画しています。現場リーダー職で年収を50万円引き上げます。引き上げは19年10月に次ぎ2回目です。
前回の引き上げで離職率は17%から12%に下がりました。2回あわせて34億円が必要ですが、見守りセンサーなど先端技術を導入し、業務改善で確保しました。「機械ができることは機械に任せ、人にしかできないケアに集中することで介護の質も向上した」(佐藤和夫執行役員)
介護や保育など福祉分野は人手に頼っていたため、IT(情報技術)化は遅れています。賃金アップの原資確保には現場の自助努力も求められています。