絶対的商品がないスマートグラス市場でリードできるか
NTTドコモの広報担当者によると、Nreal Airは発売以来、当初の想定を上回るほどの好評を得ているそうだ。購入者は30~50代を中心とする男性のユーザーが多いという。SNS上には、Nreal Airをさまざまな用途で使い込んでいるユーザーの投稿が見つかる。
NTTドコモではNreal Airの発売に合わせ、AR(拡張現実)/VR(仮想現実)系のサービスを展開するMESON(メザン、東京・渋谷)と「観光ガイド」や「リモートワーク」のデモアプリを共同開発し、これを全国のドコモショップで限定公開した。一般消費者だけでなく、外部デベロッパーにもNreal Airを生かしたアプリやサービスを開発してもらう狙いが、このデモの背景にはある。

現状では、広くエンターテインメントに使える画質の良いスマートグラス分野で、快適な装着性能と値段の手ごろさにおいて、Nreal Airは他に類を見ない製品だと考えられる。アップデートによってサービスや使い勝手を向上していけば、普及に拍車がかかる期待が持てそうだ。

一方で、他社からはエンターテインメント以外の用途に目を向けた、ユニークなスマートグラスが商品化されている。例えばアイウエアブランドのJINS(ジンズ、東京・千代田)が21年秋に発売した「JINS MEME(ジンズミーム)」は、独自開発のセンサーによりユーザーのストレスバランスを測定したり、座り姿勢をチェックしたりできるヘルスケアデバイスだ。新型コロナウイルス禍の中で発売され、在宅ワーカーからも好評を得たと聞く。

米グーグルは22年5月に開催した開発者会議で、会話音声を文字に起こしてディスプレーに表示することで、コミュニケーションを支援するスマートグラスのコンセプトを紹介した。

スマートグラスの市場には、万人を引きつけるほど圧倒的に魅力的な製品やライフスタイル提案はまだ生まれていない。Nreal Airが日本の大手通信事業者であるNTTドコモやKDDIと提携したことによって、今後「誰もが欲しくなるスマートグラス」に化けるかどうかは、スマートグラスの商品性を占ううえでも大きな試金石になるだろう。
(文・写真 ジャーナリスト兼ライター 山本 敦)
[日経クロストレンド 2022年6月17日の記事を再構成]