
ヅメさんの空気感やテンポにのっかる
9月16~19日に公演があった橋爪功さんの「リーディングプロジェクト」でも、それに近いことを感じました。橋爪さんとは2017年に『謎の変奏曲』という2人芝居の舞台でご一緒して以来、ヅメさんと呼んで親しくさせていただいています。今回は第1弾の公演に声をかけていただき、喜んで出させていただきました。公演は二幕構成で、第一幕はヅメさんとタップダンサーのRON×Ⅱさんによる朗読劇『関節話法』。そして第二幕が、ヅメさんと僕による朗読劇『船を待つ』でした。初老と青年の男の話で、2人の間で過去に起こった出来事を巡る物語が展開します。
ヅメさんは本当にお芝居がうまいので、一緒にやったら何か得られるものがあるんじゃないかという思いで臨みました。それで分かったのは、2人芝居だからヅメさんの空気やグルーブや音量やテンポにのっかればいいんだということ。自分一人でそれをつくるとなると大変ですが、ヅメさんは空気感やテンポをつくるのがお上手なので、ただそこにのっかっていけば、自然とその世界になるし、それがまた心地よくもあります。5年前に『謎の変奏曲』をやったときは、どうやってのったらいいかも見えてなかったように思います。ヅメさんがすごくうまいのは分かるけど、自分がぎくしゃくしているのも分かるみたいな感覚だったので。でも今回は、少なくとものれてはいるんじゃないかという手応えがありました。それは収穫だし、僕自身の成長でもあるのならうれしいことです。
もう1つの収穫は、天童さんの歌と一緒で、ヅメさんは押し引きがすごくうまいんです。決して大きい声でしゃべるわけではないけど、ここぞというポイントや意外なポイントで、これは大事なことかもしれないというサインをお客さまに感じさせる。そういう表現を立体的にする作業がやっぱり絶妙なのです。僕はまだそれができるようになってはいませんが、「そういうやり方があるのか」という気づきはありました。ヅメさんにのせられて、より出してみたり、より引いてみたりする場を与えてもらったので、自分の中では今までよりも高低差のある感情の世界を漂った実感がありました。
今回ヅメさんは演出もされました。役者さんだから、指示してくれることがよく分かります。最初に言われたのが、「もっと感情がよれて千々(ちぢ)に乱れてくれ」。読むだけでは、お客さまが想像しにくいところがあるけど、そこを感情の迫力で伝えて、大の大人が泣いたり、叫んで怒ったりしてみてほしい。そう言われて、できる、できないはさて置き、すごく納得しました。演出でも、表現を立体的にしてくれていたのだと思います。
読売日本交響楽団在籍のチェリスト、渡部玄一さんの生演奏もすてきでした。ヅメさんからは「物語を説明するような音楽にはしないでほしい」と言われていたので、渡部さんご自身のイメージで、オリジナルの曲を弾いてくださいました。難しい作業だったと思います。でも素晴らしい演奏でシーンとシーンの間をつないで、想像力をかき立ててくださいました。だから3人で成し遂げたという充実感がありました。