歯周病が健康寿命を縮める 糖尿病や認知症にも悪影響

歯周病は自覚症状がないまま進行していく(写真はイメージ=PIXTA)
健康で長生きするために食生活に気を配ったり、運動したりすることは大切だ。しかし、つい手薄になりがちなのが「口の中」のケア。特に、健康寿命にまで関わることが分かってきたのが歯周病だ。原因となる歯周病菌が慢性的な炎症状態を促すことや、糖尿病や認知症、動脈硬化など、老化とともに増える病気との関連が深いことも明らかになってきた。歯周病の最新情報について、口腔(こうくう)疾患と健康寿命について研究する大阪大学大学院歯学研究科の天野敦雄教授に聞いた。

エイジングに気を配り、何を食べるかに高い意識を持っている人は多い。一方、その入り口となる「口」の状態にも関心を払い、適切なケアをしているだろうか。例えば、歯磨き時の出血を少量だからと放置していたり、歯科で健康状態を定期的に点検してクリーニングを受けたりしていないという人は要注意だ。

歯を失う人は60代で急増 原因トップは歯周病

「シワや白髪対策には手間をかけるのに、歯の不調はよほど気になる状態になるまで放置という患者をしばしば目にするが、40歳を超えたら真剣に口腔ケアに取り組んでほしい」と天野教授は話す。

「食べる」「話す」といった生きるために不可欠な口の機能を支える重要な器官が「歯」。「昭和の時代に比べると日本人の歯は明らかに長持ちになってきたが、自前の歯の数は60代から減り始め、長くなった平均寿命に追いついていない。その原因が歯周病と虫歯。なかでも歯周病は原因の1位を占める」と天野教授は言う(図1)。

全国の歯科医院を対象に調査し、抜歯処置を受けた6541人の抜歯の主原因ごとに本数と割合をみた。抜歯の原因で最も多かったのは歯周病で、次いでう蝕(虫歯)や破折だった。年齢別にみると、歯周病が原因となる抜歯は60代で急増する。(データ:「第2回永久歯の抜歯原因調査報告書」2018年、8020推進財団)

60代以降、歯を失う主原因となる歯周病は、歯周病菌が歯肉や歯を支える歯槽(しそう)骨など歯の組織をむしばむ感染症だ。「歯周病菌のすみかとなるのが磨き残しによって歯にこびりつく歯垢(しこう)。わずか1ミリグラム中に10億個もの細菌が存在し、その多さは糞(ふん)便並みだ」と天野教授は指摘する。この細菌の中に歯周病や虫歯の原因菌がいる。

最新の調査では、歯周病の指標である「4ミリメートル以上の歯周ポケット(歯と歯肉の間にできる溝)が1カ所でもある人」の割合は50~54歳で54.1%と実に半数以上を占める(厚生労働省「平成28年歯科疾患実態調査結果の概要」)。「歯周病は自覚症状がないまま進行していく」(天野教授)。歯周病菌に感染した初期の歯肉炎の段階では歯肉がたまに腫れる程度だが、歯周炎になると歯と歯肉の間に歯周ポケットができ、歯周組織の破壊が始まる。そして本人が気づかない間に歯肉が腫れ、歯槽骨を溶かし、歯がぐらついて最後は抜け落ちる。

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歯周病菌は全身に飛び火 コロナ重症化の要因にも