「服装も政治も『中庸』が大切」 慶大・中山俊宏教授慶応義塾大学教授 中山俊宏氏(下)

「米国でブッシュ元米大統領に会ったとき、『おまえの髪形は小泉純一郎と同じだなあ』と言われました。そのときはもっと長髪で……」と話す慶応大学教授の中山俊宏さん

ニューヨークで見たコフィー・アナン国連事務総長(当時)のスーツの着こなしは、ため息が出るほど完璧だったという。国際政治学者で慶応義塾大学総合政策学部教授の中山俊宏さんは、さまざまな政治家や知識人の装いを目にするうちに、社会的な地位が高い人ほど、さりげないスタイルを身につけることが重要だと考えるようになった。一方、自ら身を置く学者の世界は少し事情が異なる。セルフプロデュースにたけた方々が、学会の場でも個性豊かに存在感を発揮するのだとか。これまでに中山さん自身が目にして、考察を重ねてきた「服と仕事の相関関係」について率直に語ってもらった。




「洋服は欠点を隠すもの」に共感

――インタビューに合わせて「The SUIT」という洋書を持ってきていただきました。どんな本なのですか。

「2006年に出版された、男の洋服の着方に関するうんちくと文句みたいな本。まさに今日のようなテーマのスパイスになる話がたくさんあります。著者はマイケル・アントン。トランプ前米大統領の政権下で国家安全保障会議の報道官を務めた人です。実際に会ってみると、すごいおしゃれな人、というわけではないけれど、服が大好きなんですね。この本はペンネームで書いているんです」

「共感する部分がかなりあります。ファッションはスタイルの敵だとか、洋服というのは基本的に見せるものではなく、欠点を隠すものという発想だとか。身につけているものの中でハズすのが許されるアイテムは1点だけで、あくまで着こなしのルールの枠内で遊びなさいと。やっぱりやりすぎると仮装になってしまうんです」

『The SUIT』(Nicholas Antongiavanni)著者はトランプ政権の国家安全保障会議で次席補佐官を経験した人物。「共感するところが多い本」

――おしゃれな政治家、というのは褒め言葉とはちょっと違うニュアンスもありますよね……。歴史的には政治家はファッションにかなり影響を与えていますが。

「確かに服装で知られる政治家は何人かいます。チャーチル(元英首相)、ディズレーリ(同)、ケネディ(元米大統領)……。でも、別に装いが彼らをああいう地位に押し上げたわけではなく、偉大な指導者の要件では全然ないですよね。日本の政治家だってたいていの人はきちんとスーツを着こなしている」

――見栄えということで印象的な政治家はいますか。

「中曽根康弘さんですね。あの方は中身ももちろんすごい人ですし、身長があるし、姿勢がいい。そう、どんなものを着ていても姿勢がとても大事なんです。1983年、米ウィリアムズバーグサミットに中曽根さんが出席しました。レーガンさんの横に立ってまったく見劣りがしない。私は高2でアメリカに留学していた時で、『国として、同格じゃん!』と。子供心に、世界の政治のステージに立って各国首脳から一切引けをとらない中曽根首相の姿に、感動したんです」

「ほかには、いろいろな人から聞いたのですが、小泉純一郎さんがイタリアでのサミットに参加した時、イタリア女性がこぞって見に行ったというんです。このアピール力はすごい。その後、ふるまいが堂々として、すっと背筋が伸びたきれいなたたずまいをした政治家が、日本でも増えてきました」

「でもファッションと政治の関係には危険な一面もあります。ムッソリーニやヒトラーは自身の見え方に非常にこだわった。政治とファッションは、場合によってはファシズム的な要素を帯びる可能性もある」

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「やり過ぎない」服装に徹する