搾乳室「職場に欲しい」 復帰後、女性の体に影響も

2023/1/31

搾乳室が職場にない――。出産後、母乳が出る時期に仕事復帰した女性が困っている。勤務中にも定期的に搾らないと体調不良を起こしたり、母乳が出なくなったりするリスクもあり、「トイレを使用した」という声も上がる。復帰後の女性社員の健康や働きやすさのために、搾乳できる環境の確保が求められる。

搾乳できないと、発熱や痛み、母乳止まるリスクも

「母乳量が多く、胸が張って痛くて仕方なかった。搾乳しないとあふれてしまうが、場所に困りトイレに駆け込んだ」。神戸市のある会社員女性(30)は、2018年に第1子を出産し、約9カ月後に職場復帰。家では授乳を続けており、数カ月間は職場でも搾乳が必要だった。

トイレの個室に入っても搾乳する音が周囲に聞こえないか不安だった。不衛生な環境なので母乳は捨てるほかなく、「保存して娘にあげられたらよかったのに、もったいなかった」と振り返る。

会議が連続するときはトイレにも行けなかったが、男性上司に相談することはためらわれた。「まるで苦行のようだった。会社は復職後の女性社員の状況を考えて搾乳できる環境を整えてほしい」と訴える。

搾乳室のある職場が少ないことによる問題点

授乳期は母乳で胸が張ってくるので、仕事などで子どもと長時間離れる場合は定期的に搾る必要がある。母乳が排出されずたまると胸が硬くなって痛む。乳腺炎になり、インフルエンザのような高熱や悪寒、倦怠(けんたい)感が生じることもある。また、母乳育児を継続したくても出なくなってしまう恐れもある。母子の健康面から搾乳が重要となる。

くがやま助産院(東京・杉並)の助産師、伊藤敦美さんは、搾乳頻度や時間について「個人差が大きいが、約3時間に1回など頻回に必要な場合もある。慣れないうちは1回あたり30分ほどかかるのではないか」という。

声をあげにくい搾乳の悩み 社会に知られず

労働基準法67条には「育児時間」の規定があり、生後1年未満の子どもを育てる女性は、1日2回、少なくとも30分ずつ、子どもを育てるための時間を請求することができる。厚生労働省によると、搾乳に充てることも可能だ。

しかし、企業に搾乳室の設置を求める法律はない。独立行政法人労働政策研究・研修機構の副主任研究員を務める内藤忍さんは「授乳期に復帰する女性社員は会社全体の中では数が少なく、育児と仕事の両立で忙しいので声をあげにくい。搾乳の悩みがこれまで職場や社会にあまり知られてこなかった」と話す。

国際労働機関(ILO)は00年の母性保護勧告で、職場またはその近くに「適切な衛生状態の下で哺育するための施設を設置することに関する規定を設けるべき」としている。内藤さんは「日本の職場も搾乳スペースを設けるべきだ。同時に、搾乳のために仕事を一時抜けることに対する周囲の理解も不可欠」と指摘する。

搾乳室の条件や設備を伊藤さんに聞くと、清潔でプライバシーが確保される空間であることが必要という。イスと机のほか、手や搾乳器を洗う水道や、自動搾乳器を使う場合のコンセントなどもあると便利だ。冷凍・冷蔵庫があれば母乳を保存し、持ち帰って子どもに与えることもできる。

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女性管理職増へ搾乳室設置の動きも