こんな組織はすぐ潰れそうなものだが、まだ無能になるまでは出世していない人の働きによって支えられている。だから無能であふれた組織は、人をとにかく採用しなくてはいけない。人が減っているわけでもないのに、「人が足りない」と連呼している組織は要注意だ。きっと組織は無能であふれていて、代わりに仕事をしてくれる人を探しているだけだ。新しく採用した人もいつかは、分不相応に出世して無能になる。そしてまた組織は無能で満たされていく。
この話を聞いて、自分の会社のことを全て言い当てられているような感覚に陥った人は多いのではないだろうか。きっとあなたも例外ではなく、無能になっていく。
有能なリーダーは非難を受け入れる
ピーターは階層がある組織の中では、人々が無能に突き進むことからは逃れられないとしている。
筆者が思うにピーターの主張が正しいとすると、トップまで上り詰めても無能にならない人材が会社にいない限りは、必ず会社は無能であふれることになる。ではそんな優秀なリーダーとは、どういう人のことを指すのであろうか?

それを知りたい方には、エド・キャットムル、エイミー・ワラス『ピクサー流 創造するちから――小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法』(石原薫訳、ダイヤモンド社)がおすすめだ。
エドは、「トイ・ストーリー」「ファインディング・ニモ」といった、3Dアニメ映画を世に送り出すピクサーという会社を作った1人だ。彼自身が、大学を卒業してから1000人以上の社員を抱える世界的なクリエーティブ集団をリードするまでの歴史が、本書には詰まっている。
彼の人生は、自分が無能になってしまうかもしれないという葛藤の連続であった。そうしたキャリアの中で彼が見せてきた振る舞いは、ピーターの主張の「逆」をいくようなものが多かった。
彼が小さな組織を率いることになり人を初めて採用した際には、自分より優秀な人を雇った。彼自身、自分の地位が脅かされるかもしれないという葛藤ももちろん感じたそうだ。それでも思い切ってその時に採用した人材は、その後組織にとって重要な人材になっていく。エドはこの教訓を生かし「自分より頭の良い人を雇う」と決めたそうだ。ピーターの言うように、自分に従順な部下を好んでいてはこんなことは起こらない。
こうやって集めた仲間の1人に、トイ・ストーリーの監督になるジョン・ラセターがいた。トイ・ストーリーのヒットにより、ピクサーは会社として成功し、組織も大きくなっていく。だが、そうなるとエドとジョンは、また無能になる危機を迎える。エドの言葉を引用してみよう。