「部下がどんどん増え、次第に社員の自分に対する態度が変わってきたことに気がついた。(中略)私がそこにいるとわかると、口調や行動に気を使うようになった。(中略)そのため、かつては『内情』に通じていたのに、どんどん疎遠になり掌握できなくなった。徐々に私の視界から、不機嫌、不平、無礼な態度取る人が消えた。あくまで私の視界から消えたのだ」

ピーターが述べたように、階層組織では上司に丁寧で従順な姿勢をとる人が出世できる。エドの部下が同じ行動をとるのも無理はない。

エドやジョンは、映画作りにおいては誰かに従うことよりも、率直に意見を交わすことの方が大事だと考えていた。そのため「いかにして全員が率直に意見を述べることができる環境を作ることができるか」という問題に向き合い続けた。会議のルールや組織の権限の変更など、さまざまなアクションをとり続ける。

それでも問題は起きる。ピクサーがディズニーに買収され、エドとジョンはディズニーのアニメーションチームの再建も託さるようになる。彼らがピクサー社員と向き合う時間がさらに減っていった。どんどん会社が見えなくなり、どうしたら新しい監督が育つのか、どうしたら経営が求める経費削減を作り手の創造性を落とすことなく実現できるのか、体験したことのない課題に直面し続ける。まさに無能に陥りそうな状況だ。

エドやジョンはこの苦境を乗り越えるために、ピクサー社員全員に意見を募ることにした。会社の現状に詳しい人たちの意見を尊重することにし、ピクサーの抱える問題を社員全員で議論する日を設けたのだ。その日に向け事前に議題や意見を募った。そこには、エドやジョンへの苦言ももちろん含まれていた。

多くの日本の会社も、次世代の若手に意見を募ったりするであろう。が、経営企画部などが文句を言わない従順な人を選び、社長の前で話させることの方が多いのではないだろうか?それでは、意味がない。リーダーの前には、都合のいい話しか転がっていないことになる。

自身への非難すべてに目を通す

社員全員による議論の当日は、ジョンのスピーチから始まった。事前に集められたジョン自身への率直な非難に全て目を通したこと、それらを真摯に受け止め、対処を始めたことを述べた後に彼はこう述べた。

「きょうは正直になってほしい。特に管理職は自分個人に向けられたように感じられる指摘も出てくると思う。だから覚悟して。冗談じゃなくね。神経をずぶとくしてピクサーのために発言してほしい。正直さを貫いてほしい」

彼は、自分を含めリーダーが周りの意見に耳を傾けることの重要性を説いた。それは自分への非難を受け止める行為でもある。あなたも、ピクサーのリーダーや社員のように、周りからの率直な意見を受け止められる人間になれるのであれば、無能に陥らなくて済むかもしれない。

(おわり)

丸健一
 2009年、一橋大学公共政策大学院卒、野村総合研究所入社。大手企業社長・役員のメンターとして戦略策定、海外展開支援を手がける。研究者へのコンサルティングスキル移転などエバンジェリスト育成にも注力。自社コンサルティング事業本部の教育担当も2年間務める。慶応義塾大学卒、ロンドンビジネススクールMBA。

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