③「くせ」を修正する
認知行動療法では悪循環をもたらす「くせ」に気づくことから始めます。「ちゃんと眠れないと日中の作業がつらい」と思っていても、睡眠ダイアリー(「『寝不足』も『寝過ぎ』も駄目 安定睡眠の処方箋とは」参照)をつけながら日中の支障度との関係を見直していくと、睡眠状態に左右されていないことに気づいたり、思ったより眠れている日が多いことに気づいたりするなど、多くの発見があるものです。
悪循環をもたらす「くせ」に気づいたら、好循環をもたらす「くせ」に取り組みます。実は「不眠の敵 目がさえてしまうNGツールとNGワード」で取り上げた「就寝1時間前には穏やかモードに」や「『寝不足』も『寝過ぎ』も駄目 安定睡眠の処方箋とは」で紹介した「睡眠スケジュール法」が好循環をもたらす「くせ」になります。特に、睡眠スケジュール法は認知行動療法の1つとして確立された手法で、不眠の改善に最も効果が期待できる方法なのです。
一方、「寝床に入ると緊張する」ことに関してはなかなか改善が難しいのも事実です。その場合は緊張と相反する状態であるリラックスモードを意図的に作ります。いわゆるリラクセーションですが、その中でも漸進的筋弛緩(しかん)法と呼ばれる方法がよく利用されます。これは「身体のさまざまな部位に力を入れて抜く」ことを繰り返し、リラックスモードを獲得していくものです。具体的な実践方法については著書「認知行動療法で改善する不眠症」[3]に掲載していますので、興味のある方はご覧いただければと思います。
睡眠薬の減薬・中止の促進効果も
不眠に対する認知行動療法では1回50分程度のカウンセリングを4〜6回実施します。不眠症状の改善に有効であることはもちろんのこと、睡眠薬の減薬・中止の促進効果も報告されています。また、抑うつ気分のような精神症状や、痛みのような身体症状の軽減効果もあります。ただ、好循環を生む習慣の獲得を目指すため、睡眠薬のような手軽さや即効性はあまり期待できません。また、日本では実施している施設も少ないのが現状です。このため、自分でできる認知行動療法の実践本「4週間でぐっすり眠れる本」[4]や悪循環に気づくための睡眠記録アプリ「睡眠日誌」(NECソリューションイノベータと共同開発)を利用することもお薦めします。
認知行動療法は言ってみれば「急がば回れ。肉を切らせて骨を断つ」戦法です。睡眠薬の即効性をうまく利用しながら、並行して実践していくこともまたお薦めの方法です。
[1]Qaseem, A. et al. (2016). Management of chronic insomnia disorder in adults: A clinical practice guideline from the American College of Physicians. Annual of Internal Medicine, 165, 125-133.
[2]Riemann, D. et al. (2017). European guideline for the diagnosis and treatment of insomnia. Journal of Sleep Research, 26, 675-700.
[3]岡島義・井上雄一(2012).認知行動療法で改善する不眠症(すばる舎)
[4]岡島義(2015).4週間でぐっすり眠れる本(さくら舎)

東京家政大人文学部心理カウンセリング学科(睡眠行動科学研究室) 准教授。博士(臨床心理学)。日大文理学部卒、北海道医療大大学院博士課程修了。早大人間科学学術院助教などを経て2018年より現職。毎日8~9時間睡眠をとると快調だと気づき、夜9時に寝て朝5時ごろ起きる生活を続けている。