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「3カ月に一度」は歯科医院に通う

さて、飲み方に加え、気になるのは普段のケアだ。前回(「お酒と口内環境の関係 よく飲む人は歯が抜けやすい?」)、歯磨きが十分でなかったりすると、口の中の細菌がネバネバした物質を作り出し、歯の表面にくっつく「歯垢(プラーク)」ができると聞いた。歯垢の中には歯周病菌がたくさん存在しているという。歯周病対策としては、何より毎日の歯磨きが重要になる。

しかし、歯垢は数日たつと石灰化して「歯石」へと変わる。すると、通常の歯磨きでは取れなくなるため、歯科医院で取り除いてもらわなければならない。そのため、定期的に歯科医院に通うことが大切なのだ。

「歯石が一番たまりやすいのは、下の前歯です。歯を磨いた後、鏡でチェックし、歯石がついてきたなと思ったら、歯医者へ行くようにしましょう。また、歯茎が腫れたり、出血したりしたら歯医者へ行くという方もいますが、そういった自覚症状を感じる前に歯科医院を受診するほうがベターです」(井上氏)

歯周病の初期は、歯茎の出血や腫れ、歯茎が下がる、口臭などの症状が見られる。そうした症状に気づいてから受診するよりも、「3カ月に一度」のように定期的に受診したほうが、歯周病対策としてはよいという。

「定期的に歯医者に来れば、虫歯があっても早い段階から治療を始めることが可能です。また、銀歯やセラミックなどの詰め物をしている人は、こちらも定期的に診てもらうようにしましょう。天然の歯に比べ、人工物は固く、すり減り方に差があるため、噛み合わせに問題が生じることがあります。また、時間が経つと詰め物が緩んでしまうこともあるので注意が必要です」(井上氏)

爪楊枝で歯茎を刺激するのは絶対にNG

ケアといえば、毎日の歯磨きについては筆者も頑張っているつもりだ。電動歯ブラシに加え、水流で歯間を洗い、さらにはデンタルフロスや歯間ブラシでケアをしているのだが……。

「それは頑張りすぎです(笑)。基本としては、歯茎と歯の境目をきれいに磨くことが大切です。加齢によって歯と歯の間があいてくるので、歯間ブラシはもちろん効果的ですが、やりすぎると隙間が広がってしまい、食べ物のカスが挟まりやすくなります。それがかえって虫歯や歯周病の原因になるので、やりすぎは禁物です」(井上氏)

爪楊枝で歯茎を刺激するのはNGだ(写真=PIXTA)

ショック! 「毎食しっかりケアしているから安心」と思っていたが、やりすぎだった可能性もあるとは。歯科医院では歯の磨き方も教えてくれるとのことなので、この際きちんと習うことにしよう。

「あと注意してほしいのが、爪楊枝の使い過ぎです。居酒屋でよく目にするのが、爪楊枝を2つに折って、その先端で歯茎をギューギュー押している年配の男性がいますよね。これは歯茎にとって非常によくない。歯肉が傷つき、歯茎が下がってしまいます。酔っていると力の加減も分からなくなって、血が出るまでやってしまう人もいると思います。これはすぐにやめてください」(井上氏)

これを聞いて、ドキッとした人も少なくないのではないだろうか? しかし歯の間に挟まったカスを取るための爪楊枝が、逆効果になりうることがあるとは、これも初耳。歯や歯茎は、もっと丁寧に扱ってやらないといけないようだ。

一生健康で酒をおいしく飲むためには、体を健常に保つことが第一。そのためには飲み過ぎないことはもちろんだが、口腔内をいい状態でキープすることも実は欠かせない。歯周病を防ぐためにも、酒量、飲み方に加え、日常的な口腔ケアを見直そう。

(文 葉石かおり=エッセイスト・酒ジャーナリスト)

[日経Gooday2022年9月7日付記事を再構成]

井上裕之氏
久里浜医療センター 歯科医長。神奈川歯科大学卒業。神奈川歯科大学全身管理歯科学講座障害者歯科学分野特任講師。日本障碍者歯科学会 認定医/元評議員。日本口腔ケア学会 元評議員。日本小児歯科学会 元認定医。

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著者 : 葉石かおり
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