法制遅れは人材流出を招く LGBT告白のEYジャパンCEOEYジャパン・チェアパーソン兼CEO 貴田守亮氏(下)

2021年11月、英INVolve社が毎年公開している「OUTstanding LGBT+Role Model Lists(傑出した性的少数者・支援者のロールモデルリスト)」エグゼクティブ部門の第1位に、EYジャパンのチェアパーソン兼最高経営責任者(CEO)の貴田守亮氏(50)が選ばれた。同氏はゲイであることを公表している数少ない日本人の経営トップだ。米国で世界4大会計事務所の一つ、EY(アーンスト・アンド・ヤング)に入社してキャリアを築き、16年に日本に帰国。21年から現職に就き、経営全般のかじ取りをしながら同社のDE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルーシブネス=多様性、公平性と包括性)の取り組みをリードしている。LGBT当事者として、また経営者として同氏の目に日本はどう映っているのか。

いったん手にした権利を失う恐怖感

貴田氏が3年間のロンドン勤務を終え、米国に戻ったのは2013年。公認会計士、コンサルタントとして日本企業の海外進出のサポートなどを手がけているうちに、東京行きの話が持ち上がった。8歳で日本を離れて以来、ずっと海外で暮らしてきたが、日本人として母国を良くするために貢献したいと願い続けていただけに、「ようやく」という思いが込み上げた。

だが、ロンドンで知り合い14年に米国で法律婚した英国人のパートナーを伴っての帰国には、いくつもの壁が立ちはだかった。まず、海外で法的に認められた結婚をしていても、同性婚を認めていない日本では、配偶者ビザが支給されない。つまりパートナーが合法的に滞在するためには仕事探しから始めなくてはならなかった。それだけではない。

「何より大きかったのは、一旦手にした権利、人権を失うことへの抵抗感、恐怖感でした。例えば、もしもパートナーが日本で緊急の手術が必要になった場合、彼は私の夫なのに私は家族として手術の同意書にサインすることができません。また私の身に万が一のことがあると、最悪の場合、彼が財産を相続できないかもしれません。たとえできても、男女の夫婦であれば当然受けられる相続税の優遇措置などが受けられない可能性もあります。日本にはLGBTへの差別禁止法がないので、何か問題が発生した時に法的措置を講じることもできません。そうしたリスクをとってまで日本に帰るべきなのかどうか、すごく悩みました」

帰国を決心したのは、パートナーが「この機会を逃してしまうと、一生、日本のために貢献したいという夢を実現できなくなる」と言って、背中を押してくれたからだという。

16年、パートナーと共に日本に降り立ち、19年に最高執行責任者(COO)、21年からはCEOとして、とりわけDE&Iの推進に力を発揮してきた。その取り組みが世界でも評価され、冒頭の「ロールモデルリスト」1位選出につながった。LGBTの当事者はセクシュアリティーを知られることを恐れて転職を繰り返し、管理職以上のポジションに就くことが難しいと言われるだけに、今回の受賞は大きな意味を持つ。貴田氏の元にはビジネスSNS(交流サイト)のリンクトインを通じて多くの祝福の声が寄せられた。特に欧米に比べLGBTの経営者が少ないアジアの国々から「勇気づけられた」という声が目立ったという。

EYジャパン・チェアパーソン兼CEO 貴田守亮氏
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グローバルな議論に変化の兆し