ジャカルタは現在、驚くべき速度で沈下を続けている。場所によってその程度は異なるが、北部では年に最大約28センチメートルにもなる。今ではジャカルタの約40%が海面よりも低い位置にある。
「ジャカルタはあらゆるものが集まる都市です」と、インドネシア大学都市計画学部の講師ヘンドリクス・アンディ・シマルマタ氏は言う。「ここは行政の中心であり、経済、文化、エンターテインメントの中心でもあります。長い年月の間に、ジャカルタは制御不能のまま、環境支援システムを持たない巨大都市へと成長を遂げてきました」
結局のところ、それこそが現在、この街が沈み続けている理由だ。
地下水に頼らざるを得ない暮らし
2007年の洪水の後、州政府はジャカルタの総面積の少なくとも30%を、緑地や空き地に割り当てることを義務付ける規制を採択した。緑地は豪雨による洪水を吸収し、またこの街の枯渇した地下帯水層を再び水で満たす助けとなる。現在ジャカルタにある緑地は、市街地の10%に満たない。

大量の地下水のくみ上げは、ジャカルタの地盤沈下の主な要因の一つとなっている。ジャカルタの水道は400万世帯足らずにしか行き渡っておらず、これは街全体の4分の1強にすぎない。残りの世帯は、基本的に地下水のくみ上げに頼っている。
そうした行為は違法ではないが、課税の対象ではある。しかし州政府は、市内に点在し、たいていは閉じた扉の向こうに隠されている無数の深井戸を監視、課税することができずにいる。
ジャカルタの洪水の原因を研究しているバトゥバラ氏によると、深井戸の数は市の人口とともに膨れ上がり、1968年には400本だったものが、1998年には3600本以上になったという。2011年のある調査では、ジャカルタはすでに地下水の64%を消費したと推測している。
ジャカルタ州のアニエス・バスウェダン知事は、2030年までに水道ネットワークを街全体に行き渡らせると表明している。そのためには既存インフラの大幅な拡張が必要となるが、今のところ必要な規模の工事が行われる気配はない。

北ジャカルタのような海岸地帯には現在、水道水の供給がないため、住民たちは150メートルもの深さの井戸を掘っている。「50メートル以下では塩水しか出ません」と語るのは、ムアラアンケ地域のリーダーで、貝の養殖で生計を立てているアルティ・アスタティさんだ。深井戸がひとつあれば、50世帯をまかなうことができる。
井戸がない場合は、40リットル入りの容器を使って水を買うことになる。1日の稼ぎが7ドル以下の典型的な4人家族であれば、あっという間にその5分の1が水の代金に消えていくと、アスタティさんは言う。
巨大防潮堤は街を守れるか
近年、ジャカルタの知事選は激しさを増している。ジャカルタ知事の地位が、大統領を目指す足がかりになっているためだ。知事選の候補者たちは決まって、ジャカルタが抱える慢性的な交通渋滞や大気汚染、深刻な洪水などの諸問題を解決すると約束する。
しかし、この街の問題はひとりの知事の在任期間中に解決できるようなものではない。長い年月の間に、何人もの知事たちが来ては去っていったが、問題はいまだに残ったままだ。