米ミネソタでカヌーの旅 川や湖、そして歴史をたどる

ナショナルジオグラフィック日本版

米国ミネソタ州サガナガ湖の湖面にただよう霧が、朝日を受けてピンクや紫色に染まる。サガナガ湖は、歴史的に重要な先住民の交易路「ボーダー・ルート」の一部だ(PHOTOGRAPH BY BRYAN HANSEL)

米国ミネソタ州北部、カナダとの国境に位置する湖と川をたどる全長400キロメートルの「ボーダー・ルート」は、カヌーイスト憧れの北の大地だ。

この旅では、花崗(かこう)岩と松の木に囲まれた広大な湖で完全な孤独にひたれるだけでなく、かつて北米先住民が物資の輸送に利用し、今日もオジブワ族の人々が利用している重要な水路をたどることもできる。

すばらしい湖や古代の壁画、そして今も繁栄している先住民のコミュニティーなど、「一生に一度だけの旅」のさまざまな見どころを紹介しよう。

先住民と世界をつなぐ「高速道路」

ミネソタの先住民であるクリー族、ダコタ族、オジブワ族、アシニボイン族は、何百年も前からボーダー・ルートを利用してきた。このルートは、カナダのモントリオールからアサバスカ湖までの約4800キロメートルにおよぶ交易ネットワークの一部だ。

「20世紀に入るまで、ミネソタでは陸路を旅する人はいませんでした」と、ベミジ州立大学のオジブワ語教授であるアントン・トロイアー氏は言う。「どこに行くにも水路が使われていました。川や湖は、先住民と世界をつなぐ高速道路であり、動脈だったのです」

1730年、クリー族のあるガイドがニューフランス(北米のフランス植民地)の軍人のためにカバノキの樹皮に地図を描いた。地図には、スペリオル湖の北岸にあるグランド・ポーテッジの集落と、そこから北西に何百キロも離れたウィニペグ湖を結ぶ水路が示されていた。フランス人たちはこの地図を頼りに、18世紀のロンドン、パリ、モスクワなどの最先端のファッションを追い求める人たちが欲しがっていたビーバーの毛皮を求めて、北米大陸の内陸部に分け入った。

スペリオル湖から出発するとすぐに14キロメートルの陸路の上り坂があり、この難所はグランド・ポーテッジと呼ばれていた(ポーテッジとは、2つの水路をつなぐ陸路のこと)。陸路のおかげで大きな滝が続く危険な水域を避けられるが、虫の多い北方林の中を標高300メートル分も登るこのルートは楽なものではなかった。それでも半世紀後には、グランド・ポーテッジの集落は周囲1500キロメートルの範囲に100カ所もできた毛皮交易所の中心地となっていた。

1933年に撮影された、グランド・ポーテッジ国定公園内の英国北西会社本部の写真。グランド・ポーテッジは、18世紀の北米で最も重要な毛皮交易拠点の1つだった(LIBRARY OF CONGRESS)
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