
中国や北朝鮮のミサイル開発が進んでいます。緊張や脅威の高まりに備え、政府は敵の基地などを攻撃する装備を持つかどうか検討を始めました。実現すれば撃たれる前にたたくことになるため、憲法に基づく「専守防衛」の範囲が拡大する可能性があります。
岸田文雄首相は所信表明演説で「安全保障環境は厳しさを増している。敵基地攻撃能力も含め、あらゆる選択肢を排除せず現実的に検討する」と述べました。
敵基地攻撃は自衛権に含まれ国際法上、合法です。しかし、日本には国際紛争の解決手段としては、戦争や武力の行使を放棄するとした憲法9条があります。防衛政策は専守防衛を基本とし、自衛隊の活動や兵器は自衛のための必要最小限度とされています。
このため敵基地攻撃は法的に可能としながらも、実行に必要な兵器は持たずにきました。相手の国土に甚大な打撃を与える攻撃型空母、長距離ミサイル、長距離爆撃機は自衛の範囲を超えるとされています。

こうした打撃力は日米同盟で米軍が担ってきました。しかし、中国や北朝鮮が軍拡を進める中、日本も自衛の範囲を広げ、一定の打撃力を持つべきだという声が強まっています。
自衛の範囲は拡大してきました。例えば台湾海峡有事への対応です。日本にも影響が及ぶと考えられ、政府は存立危機事態を宣言して自衛隊が米軍を支援する可能性があります。
米軍の護衛で自衛隊が武力を使えば集団的自衛権の行使にあたります。かつて日本政府は集団的自衛権は有しているものの、その行使は自衛の範囲を超えるとして認めていませんでした。米軍支援のため、憲法解釈を2015年に変え、日本の存立に関わる事態では行使を認めました。
これは自衛のための必要最小限度を見直し、専守防衛の範囲を広げたといえます。自衛の範囲の拡大と兵器の拡大は表裏一体です。米軍の護衛には空母のように航空機が発着できる艦船が重要とされます。攻撃型ではないというものの、空母のように運用する艦船を持つことは自衛の範囲内とされるようになりました。

敵基地攻撃では必要最小限度を超えるとされてきた長距離ミサイルの導入を検討します。認められれば、集団的自衛権や空母のような艦船に続き、専守防衛の範囲が広がります。
脅威の高まりとともに自衛の範囲を国際法の標準に近づけ、新たな兵器を入れるには国民的議論が必要です。空母のような大型艦船の運用は自衛の範囲内といえるのか、十分な議論がなされたとはいえません。
敵基地攻撃は1年かけて議論します。自衛隊の元海将で金沢工業大学大学院の伊藤俊幸教授は「将来どんな脅威が想定され、それにどう対処するか、戦略を立て、必要な装備を考える。戦略に基づいた議論が重要だ」と話しています。