2022/9/30

男女間賃金格差の元凶か 「チャイルドペナルティー」に着目

このような制度の背景には、男女の賃金格差の問題がある。日本に限らず先進国共通の問題で、ジェンダー平等施策が進む国では徐々に差は縮まってきた。ただ、世界の経済学者は根強く残る関門としてチャイルドペナルティーに着目する。

チャイルドペナルティー問題は米プリンストン大学のヘンリック・クレベン教授らが19年に提起した。学歴等の性差が解消された先進国でも、なぜ格差が残っているのか。各国の統計データを分析し、出産するとあたかも罰せられるかのように収入が下落する状況が元凶だと突きとめた。

日本の状況は財務省財務総合政策研究所の古村典洋さんが厚生労働省「21世紀成年者縦断調査」を基に試算した。出産1年前の収入を基準とし、出産1年後は67.8%も減る。出産退職して収入がゼロになる人も含むので減少幅は大きめに出る。

ただ日本は他国に比べ落ち込みが大きく、その後の回復も緩やかだ。「日本では長時間労働ができないと評価されにくい。子育てに時間を割かざるを得ない女性は昇進・昇給で不利になる」と古村さんは指摘する。

今年7月に男女間賃金格差の情報公開が大手企業に義務付けられた。チャイルドペナルティーの解消に向けて先進企業は先手を打つ。

帝人は20年7月に昇進規定を見直した。国内外の主要グループ企業8社の男女間賃金格差を19年から調査。格差の要因を分析し、日本では育児休業を取得した社員の昇進が平均1年遅れると分かった。人事評価に空白が生じる場合があり、管理職への昇進を見送る事例があった。「育休前後の評価を補正し、能力に差がないなら昇進が遅れないように改めた」(人財開発部)

20年度に「キャリアの早回し」を導入したのは、双日だ。一般的に日本の大手企業は、若手社員に横並びで経験を積ませる。課長やリーダーといった管理職に昇進するのは30歳以降。女性にとっては出産・子育て期と重なる。ここでキャリアロスが生じると男女差がなかなか埋まらない。

海外勤務の経験がないと課長になれない双日も、初めて海外赴任するピーク年齢は30歳。出産と重なり、赴任チャンスを逃す女性社員が少なくなかった。このままでは管理職に登用できる女性が限られる。そこで人事異動ではない国際インターンシップ制度を活用し、女性社員を20代で海外に送り出すようにした。

双日の合田紗希さん(中)は現在ミニストップベトナムに出向中。20代半ばで海外経験を積み、将来のライフイベントに備える(ベトナム)

ミニストップベトナムで働く合田紗希さんは18年入社で20代半ば。人事部門を経て今年2月から同社に出向し、現地赴任した。同国内で展開する約130店舗の事業全般に携わる。「利益とコストの詳細にも目配りが必要で、貴重な経験を積めている」。独身だが、いずれ結婚して子どもは持つつもりだ。「今のうちに成長しておきたい」

双日も男女間賃金格差はある。要因の一つは女性管理職比率の低さだ。女性課長比率は10.5%(今年4月)、30年度に20%程度に増やす計画だ。出産などのライフイベントに伴う課題が解消できれば女性管理職は増え、賃金格差も解消に向かう。

ただ女性の育成を優先することに男性から批判は出ないのか。人事部長の岡田勝紀さんは「多様な人材が活躍する環境は組織活性化とイノベーション創発に不可欠だ。キャリアの早回しを含む女性活躍推進は女性のためでなく、経営戦略としてやっているので反発はない」と強調する。

■能力に応じて稼げる環境を

チャイルドペナルティーは当事者のキャリア意識からも生じる。育児負担が女性に重くのしかかる現状では、出産後に仕事への意欲が下がりやすい。それを引きずったままだと賃金が比較的安い定型業務で満足してしまうこともある。

千葉銀行はキャリア意識を刺激する育休チャレンジプランを21年7月に導入した。市場調査や商品企画などの本部業務を育休中の社員に単発で任せる。女性社員の多くは営業店の窓口で働く。「日ごろと異なる経験を積み、育休復帰後のキャリアアップのきっかけにしたい」(ダイバーシティ推進部)。賃金は働く意欲を左右する要素の一つ。能力に応じて稼げる環境を企業は整えてほしい。
(編集委員 石塚由紀夫)

[日本経済新聞朝刊2022年9月19日付]