「やはり、『実地ファースト』だと学びが深まるし、すぐに頭に入ってきます。でも、何も経験がない状態でテキストから学び始めると、きついですよね」と荒木さん。経験に基づく実地ファーストが大人にはおすすめという、荒木さん流リスキリングの第2法則だ。
逆にとりあえず資格や経営学修士(MBA)などの学位を取っておけばなんとかなるという風潮に対し、荒木さんは否定的。「自分がやりたいことがまずあって、だから勉強しようとなるべきで、単に知識が足りないから補填するというような考えでは、学んだ内容は生かされない」と話す。
公私一体で自分のミッションを見定め、経験に基づく実地ファーストで学び直しを進める。そして新しいスキルを身につけたことで生まれた仕事の現場から、知見をくみ取り続ける。これが、本当に仕事で使えるリスキリングのあり方の1つだろう。
保育士のスキルを財団運営に生かす
保育士になって、放課後等デイサービスで休日に働き始めた。「現場に入って体感したことを、ロートこどもみらい財団の在り方にフィードバックするためです。これをしないと、空虚な机上の空論になってしまう。魂を込めることが大事なんです」(荒木さん)
実際、保育士としてのスキルはロートこどもみらい財団の仕事に直接的に役立っている。いろいろなことに興味・関心があって、その探究が止まらない子や少し心が沈んでしまっている子への向き合いだったり、また、個別の面談をするときだったり、「保育士としてのスキルがなかったら対応できなかった」と思える局面が多々あるという。さらに、官僚時代に身につけた、実地(ミクロ)から入って、それを制度(マクロ)につなげていくスキルと組み合わせ、文部科学省の「特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する支援の推進」といった国の政策につなげていくようなことも考えているという。
荒木さんは、保育士のほかに、遊びは学びであることを伝える役割でもある放課後児童支援員でもある。保育士を手始めに学びを深め、あらゆるタイプの子どもに寄り添えるようスキルを磨き続けている。「リスキリングに終わりはないので、常にリスキリングです」。誰もが自分らしく生きられる社会を民間の立場から作り続けるために、荒木さんはきっぱりと言い切った。
(桜井陽)