
「旅の始まりは列車に乗ることから」という人も多いだろう。33都道府県と結ぶ列車が走り、発着本数日本一の東京駅はまさに旅の「出発地点」としてふさわしい。1日約4100本の列車が行き交う眺めは、その先につながる旅への思いを自然とかきたててくれる。絶景のトレインビューなど鉄道好きはもちろん、そうでなくても赤レンガの東京駅の眺めを愛(め)でながら、旅情に浸れるホテルを今回はご紹介しよう。
2つのドームを擁したレンガ造りの東京駅丸の内駅舎は、大正3年(1914年)に完成した辰野金吾設計の名建築を保存・復原(ふくげん)した東京のシンボルといえる。国指定重要文化財であるこの駅舎内にある「東京ステーションホテル」は、駅舎と共に歩み、多くの高級ホテルが加盟する「スモール・ラグジュアリー・ホテルズ・オブ・ザ・ワールド」のひとつとしても知られる。洗練されたクラシカルな雰囲気は、ヨーロッパの駅に到着したような気分とも重なる。

客室数は全150室で、ヨーロピアンクラシックの美しい意匠がこらされている。東京駅の駅舎ドームのレリーフが臨める部屋や、室内に階段のあるメゾネットなどもあり、ここが駅であることを忘れてしまいそう。全長335mある駅舎。ホテルの長い廊下には100点を超えるアートワークが展示され、整然と並ぶ客室灯は大陸を走る豪華列車の客室車両を想起させる。現在の2033号室は、1950年代に作家、松本清張がたびたび宿泊した部屋にあたるという。当時は駅のホームが見渡せ、その眺めから小説「点と線」のトリックを着想したといわれている。
南北のドームに面した「アーカイブバルコニー」は、ドームレリーフを間近で眺められる宿泊者専用のスペースだ。眼下には東京駅を行き交う人たちの姿が。歴史や写真の数々や南ドームには創建当時のオリジナルレリーフが一部残されており、しばしタイムトリップした気分にも浸れる。宿泊して気づくトリビアや非日常感に改めて驚かされる。
メインダイニングの華やかなフレンチレストラン「ブラン ルージュ」をはじめ、駅舎の屋根裏というプレミアムなゲストラウンジ、赤レンガのインテリアがオーセンティックなバーなど実に10のレストランやバーがある。人工炭酸泉のバスも備えたフィットネスやスパ、さらに宴会場も3つあり、結婚式も挙げられる。まさに東京駅自体が旅情を存分に味わえる存在であることを認識させてくれるホテルだ。