日本の「オンライン医療」についての厚生労働省の指針では、「プライバシーが保たれるように、患者側、医師側ともに録音、録画、撮影を同意なしに行うことがないよう確認すること」とされています。いわば録画は「例外」といえるのでしょう。実際、メジャーなオンライン診療アプリには「録画」機能は削除されているものもあります。ですが、もし犯罪性があるような場合には、医師も医師の立場を守るために「録画」が必要になることがあるかもしれません。
訴訟大国のアメリカでも、コロナ禍をきっかけに「オンライン医療」が急速に普及しましたが、「保険制度」の違いが大きな差となりました。医療機関の患者さんに対する診察代金請求を保険会社が代行してくれることや、もともと、「時間予約をいれてから医師と予約した時間に患者が訪問して診察をうける」という、通常の完全アポイント制度が当然だった事、などの理由もありますが、「録画ができるか、できないか」の違いも、多分にあったのではないか、と思います。そして、日本で、オンライン会議サービス「Zoom(ズーム)」などをお薦めできないのは、自動的に録画が始まるように設定されていることがあるからです。
さらに細かい事を言えば、治療の内容ではなく、「必要な説明をしなかった」ことが問題とされ裁判になる事もあります。医療機関で標準治療とは異なる治療が行われた際、事前説明の内容などを巡ってトラブルになり、裁判に発展する事例も見られます。夜間医療、救急医療、自由診療、標準治療外医療において、医師に求められる注意事項は半端なものではありません。
現代の「常識」が未来では「非常識」に
ただし現代での「常識」が、未来では「非常識」になることはあるかもしれません。かつて、がんの告知がそうでした。ですから「原則」として「録画」ができるか、できないか、の問題は、将来、身近な問題に発展していく予感があります。
また、もう一つ、日本のオンライン医療には、「チャットでのURL 表示をクリックしても、URLのある箇所に飛べない」という問題もあります。まだまだ、世界との違い、「差異」を掘り下げて議論していかなくてはいけないのが、日本の「オンライン医療」のようです。
そして、特に「世界の未来」を考えるに注意すべきは、上記のような「日本のルール」はドメスティックルールであり、「世界のルール」つまり「インターナショナルルール」「グローバルルール」ではない、という点です。「ドメスティック」にも、「グローバル」にも対応できる「フォーマット」を作れる能力がある医師がいるとしたら、海外事情にも詳しく、医師(臨床家&学術業績)としての実力もあり、かつ、IT分野での、かなりの成功体験があり、世界に通じる「道徳心」と「倫理観」と「正義感」とで世界をまとめる力がある医師でないといけないと感じています。

1957年山形県生まれ。83年慶大医学部卒。東京都済生会中央病院で糖尿病治療を専門に研さんを積む。 その後、国立栄養研究所、日本医科大学老人病研究所(元客員教授)などを経て、現在はHDCアトラスクリニック(東京・千代田)の院長として診療にあたる。
鈴木医師が院長を務めるHDCアトラスクリニックのHPでは、専門である糖尿病に関する情報を幅広く紹介しています。