爆撃すべきか否か?

この試みが成功し、他が失敗したのはなぜだろう? ディートリック氏によると、溶岩流の向きを変えるためには、いくつかの条件を満たしている必要があるという。溶岩チューブや溶岩流路のように溶岩が流れるルートがあり、それらに穴をあける場所を正確に選べ、そして、向きが変わった溶岩が流れる先として問題ない場所があることだ。

「これは非常に特殊なシナリオです。一般の人が思うよりはるかに特殊です」とニュージーランドのオークランド大学で溶岩流の危険性を研究しているソフィア・ツァン氏は言う。溶岩は最も急な下り坂に沿って流れていくため、爆破する場所もかなり急な斜面になければならない。エトナ山は成層火山で傾斜角度が大きいのに対して、マウナロア山をはじめとするハワイの楯状(たてじょう)火山の傾斜は緩やかなため、爆薬を使って溶岩流をそらせることは多くの場合、検討に値しない。

仮に、もっと高いところに亀裂ができて、爆薬を使って流れを変える時間的余裕があったとしても、法的な問題が発生する可能性がある。ユネスコの世界遺産から溶岩を遠ざけられたとしても、そのせいで近代的な集合住宅が溶岩にのみ込まれるかもしれない。

「私有地もインフラも何もないところに溶岩を流す必要があります」とソルダーティ氏は言う。しかし、そんな場所はほとんどない。2018年のハワイのキラウエア山の噴火や、今も続いているスペイン領カナリア諸島ラ・パルマ島のクンブレ・ビエハ火山の噴火を見てみよう。いずれも人家のすぐそばに噴火の割れ目ができていて、爆薬を使って溶岩の流れを変えることは無謀だ。

2018年5月、ハワイ島キラウエア山の大噴火の際に、燃えた森林から灰が舞い上がる。プナ地区南部では8月まで噴火が続いた。噴出した溶岩は近隣の分譲地に流れ込み、州道を横切った。(PHOTOGRAPH BY USGS, HANDOUT, ANADOLU AGENCY VIA GETTY)

多くの場合、「誰かが深刻な被害を受けることになります」とドノバン氏は言う。

さらに、ハワイに住む人々の多くは火山に畏敬の念を抱いており、火山を爆撃するのは冒涜(ぼうとく)だと考えている。

キラウエア山は2021年9月に再び噴火し始め、山頂の溶岩湖のひび割れた表面を隆起させた(PHOTOGRAPH BY L. DESMITHER, USGS)

野生の猛獣のような溶岩

2020年9月25日付で学術誌「Journal of Applied Volcanology」に掲載されたツァン氏らの溶岩の危険性をまとめた研究によれば、爆薬など使わなくても溶岩流の流れを変えられるかもしれない。

1973年、アイスランドのヘイマエイ島にあるエルトフェットル火山が噴火し、同国にとって重要な港が消滅する危機に陥った。対応にあたった人々は、噴火が終息するまで5カ月にわたって大量の海水を溶岩にかけ続け、溶岩の流れるスピードを遅くすることに成功した。しかし、この方法は、海が近い場所でないと再現できそうにない。

2021年4月、アイスランドのファグラダルスフィヤル火山にある2つの火口から流れる溶岩(PHOTOGRAPH BY HALLDOR KOLBEINS, AFP VIA GETTY IMAGES)

防御壁によって溶岩流を阻んだり、向きを変えたりする方法は、はるかに一般的に利用されている。「爆撃よりも確実に時間を稼げるようです」とツァン氏は言う。

爆撃とは違い、防御壁は噴火前に火山の周りに設置することができる。2021年5月に大噴火を起こし、大きな被害を出したコンゴ民主共和国の危険な火山ニイラゴンゴの周囲に防御壁を建設するという話もある。しかし、このような予防策が常に可能であるとは限らない。溶岩は、火山の広い範囲に突然できた亀裂や火口から噴出することが多く、先手を打って防御壁を設置することは困難なのだ。

「溶岩は一般的な流体ではありません」とスペインのナショナル ジオグラフィック研究所の火山学者スタブロス・メレトリディス氏は言う。溶岩は自ら独特な地形を作り、周囲にブルドーザーのような力と猛烈な熱を及ぼす。それは気まぐれに方向や速度を変える、野生の猛獣に似ている。

暴走する噴火による被害を食い止めようとする人は、自分たちが「火山のなすがままの存在」であることを忘れてはならないとディートリック氏は言う。

ドノバン氏は、溶岩の流路に何を置いたとしても、「噴火が止まらなければ、溶岩はどんな障壁も、どんな穴も乗り越えてしまうでしょう」と語る。

(文 ROBIN GEORGE ANDREWS、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック)

[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2022年4月10日付]