Men's Fashion

仕事はノータイの今こそ ネクタイのおしゃれ“解放”

How to

胸元の自己表現(上)

2023.1.23

MEN'S EX

あなたにとって、ネクタイとはなんだろうか?仕事服の一部……だとしたら、それはちょっともったいない。本来、タイは装身具。強いられて締めるものではなく、自己表現の手段だ。服装の多様化が進む今こそ、タイ本来の楽しみを見直してみよう。その具体策を、服飾業界の洒落(しゃれ)者たちに示してもらった。




ビジネスという固定観念から解き放たれた今こそ、タイ本来の価値が輝きはじめている

ユナイテッドアローズ 上級顧問 クリエイティブディレクション担当

栗野宏文さん

美しい多色使いが印象的なタイはスティーブン ウォルターズのもの。ディストリクトのブルゾンとパンツ、シャルべのシャツを合わせて。「タイを主役にしてコーディネートを考えました。アクセサリーとして楽しむなら、これくらい主張のある色柄が気分ですね。店頭でも個性派のタイがよく売れています。シャツはベーシックな青白ストライプ。トップスがカジュアルなブルゾンなので、パンツはチノではなくウール素材を選んでバランスをとりました」

栗野 「ネクタイ締めてお洒落をしよう」、いい企画ですね。大いに賛同します。何を隠そう、UAでも2年ほど前から、タイの売れ行きがかなり好調なのです。今、世の中には確実にタイを求める気運が醸成されているということです。

M.E. そうなんですか! 仕事服かいわいでは依然ノータイ化が進行していますが、なぜここにきてタイが再注目されているのでしょうか?

栗野 むしろビジネスでタイが必須ではなくなりつつあるからこそ、今の盛り上がりにつながっているのではないでしょうか。タイ着用が義務ではなく“選択肢”になると、意思をもってタイを選び、身につけようという主体性が出てきます。すると、そこに熱量が生まれる。つまりタイドアップが楽しくなるわけです。そんなムードが、今のネクタイ人気を後押ししているのではないでしょうか。

M.E. なるほど、鋭い分析です。ちなみに栗野さんご自身の装いにおいても、最近タイドアップの頻度は高まっているのでしょうか?

栗野 そうですね。カジュアル偏重に対するカウンターもあって、近ごろはタイを締めることが増えています。タイは男性の服装に由来する数少ないアクセサリーですから、活用しないのはもったいないですよね。

M.E. ちなみに当企画では、あえて“ビジネススタイルではないタイドアップの装い”をリクエストさせていただきました。今日はブルゾンにタイを合わせていらっしゃいますが、こういった装いは以前から実践されていたのでしょうか?

栗野 はい、昔から気に入っているスタイルのひとつです。カジュアルなアウターにタイを合わせるのは“ハズシ”に見えるかもしれませんが、必ずしもそうとはいえません。アメリカのマイク・ディスファーマーという写真家が20世紀前半の労働者や農民の姿を作品に収めていますが、そこにはGジャンやツナギにタイを締めた人物がしばしば見られます。なので私の感覚だと、ブルゾンにタイドアップという服装は決して奇異な選択肢ではないのです。

M.E. 実は歴史的な装いなんですね。ちなみに、スーツにタイドアップのようなクラシックスタイルに関してはどのようにお考えですか?

栗野 ファッションにおけるひとつの“フォーマット”として受け継がれていくのではないでしょうか。たとえば近ごろ、ヴィンテージジーンズにキャップを被るようなスタイルに親しんできたUAスタッフたちが「今はスーツ気分なんですよね」などと話していたりします。彼らはスーツスタイルをビジネスウェアではなく、ひとつのファッション的様式として捉えていて、そこに新鮮さを見いだしているわけですね。いわば近年ブームになっている俳句と同じような感覚です。ひと昔前まで、スーツスタイルは“ルールを守って楽しもう”という世界でした。しかし今や、昔ながらのルールは消滅しつつあります。そしてこれからは、自由なファッションの世界で“ルールを利用する”時代。つまり伝統的な装いを様式美として楽しむ文化が形成されていくでしょう。

M.E. いわれてみれば確かに、そのような気配を感じます。では今後、ネクタイというアイテムはファッションの中でどのような存在になってくるのでしょうか?

栗野 希望的観測ですが、タイ=ビジネスマン、ドレスクロージングといった固定観念が変わってくるといいなと考えています。たとえば女性は職業など社会的属性や、オン・オフなどのシーンに関係なくネックレスを身につけますよね。タイもそういう感覚で親しまれるようになってほしいのです。これまではビジネスウエアの一部というバイアスがかかっていたがゆえに、タイ本来の価値や意味が見えにくかった。それが新しい時代を迎えて、ようやく輝きを放ちつつあるのだと思うのです。

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