しょうゆを使わない「オイルずし」をワインと堪能

自分へのごほうびにふさわしい料理といえばすし。銀座のカウンター席で、しかもしょうゆを使わない、世界初のオイルずしはいかがだろうか。さまざまな香りのオイル40種と、世界各国の塩30種を縦横無尽に組み合わせ、まったく新しいおいしさを堪能できるのが「米菜°sakura 織音寿し」(ベイサイドサクラオリオンズシ、東京・中央)。山形の有名イタリアン「アル・ケッチァーノ」のオーナーシェフ奥田政行氏の直営店だ。
ランチは7700円~、ディナーは1万8150円~、コースのみを用意(税・サービス料込み、要予約)。今回はディナー1万8150円のコース(オイルずし10貫、海からの潮菜3品、巻物1品、デザート)を体験。ワインを主体としたペアリング(グラス7~8杯・1万円から)にするのが特にお薦めだ。
まずは、シャインマスカットをつまみにシャンパーニュで乾杯していると、バーナーであぶった巻物を目の前のすし職人から直接手渡されて、ちょっと驚く。磯の香りが漂うノリの中には酢飯が見える。
「当店ではご飯は3種を使い分けています。赤酢(美濃三年酢)を使ったもの、純米大吟醸酢を使ったもの、そして今、召し上がっていただいているユズの皮が入った酢飯。この巻物には中にブラックペッパーを加えています」と職人さん。さわやかなユズ風味の中に、突然やってくる刺激的なコショウの味。「すしにコショウ?」と予想外の展開で驚いていると、これがシャンパーニュと驚くほど合うではないか。
すしネタは山形・庄内産がメインで、1貫目のタイはレモンでしめたものに、刻んだイタリアンパセリやセロリを加えた握り。さっぱりした前菜のよう。彩り鮮やかな「旬野菜のバーニャカウダ」(冒頭写真)はパプリカ、ラディッシュ、サヤエンドウなど。庄内産のアミ(小エビ)の魚しょうとカリフラワーのソースがやさしい味で、野菜一つひとつの味が際立つ。
2貫目のマトウダイにはマカダミアナッツのオイル。さらにキジハタにはバジルオイル。どちらもオイルは透明なのに口に含むとナッツやバジルの濃厚な風味が広がるので、不思議な気持ちに。ワインは甲州品種の山形産ワインと共に。アオリイカにはショウガオイル。タコにはワサビオイル。ショウガもワサビも刺し身の薬味アイテムであるが、オイルがまさしく潤滑油となって、ワインともしっくりくるのだ。

6貫目の車エビにはベルガモットオイル。ベルガモットといえば紅茶のアールグレイだが、すしとなるとまったく味の想像がつかない。まずは車エビの頭部分をシンプルに塩だけで味わい、次にベルガモットオイルをぬった尾の部分を味わうという2段階なので、味の変化を楽しめる。エビの甘やかなうま味がベルガモットの香りにやさしく包まれると、思わずため息。
同じ南フランスのロゼワインで味わうのは、皮の部分がロゼ色に美しく光るイトヨリダイ。ピンクグレープフルーツのオイルでさわやかに仕上げており、ワインのかんきつ香と見事にマリアージュした。
脂ののったサワラの握りは金ゴマのオイルで、ふっくらとしたノドグロの握りは、石川県輪島産の高級な塩でシンプルに。これら香ばしいあぶりの2貫(冒頭写真)は日本酒と。4種の日本酒をアッサンブラージュ(ブレンド)したという酒は、エレガンスなフレッシュ感もある一方で、後半はどっしりとした複雑なうま味も広がる。有名なアロマスペシャリストがブレンドした限定酒なのだとか。

最後は定番ネタのマグロ。トマトのタネの周りをゼリー状にしてマグロを漬け込み、最後にガーリックオイルをぬり、上から竹炭の塩を振ったもので、とろりとした舌ざわりが絶品だ。ここで初めて登場する赤ワインは、ストロベリーの香りが漂う軽やかなピノノワール。トマトの風味もまとったワインで、漬けマグロとのハーモニーが秀逸。トマトのニュアンスにより、マグロと赤ワインが見事に一体化した瞬間、思わず笑みがこぼれてしまう。
想像を超えるオイルずしの数々。その独自の世界観に圧倒され、口福の旅は感動のフィナーレを迎えた。