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外資系コンサルの内定を断り、川崎ブレイブサンダースへ

実は藤掛氏、小学校4年生でバスケットボールを始めて以来、漠然とバスケットボールに関する仕事にかかわりたいと考えていた。

「アメリカのプロバスケリーグNBAの試合を録画しては何度も見たり、好きな選手の直筆サイン入り写真が欲しくて、雑誌の懸賞に100枚以上のはがきを手書きで送付するような少年でした(笑)。雑誌でNBAやbjリーグ(正式名称は日本プロバスケットボールリーグ。2005年から16年まで開催されていた)のクラブ経営に関するコラムを読み、自分もNBAのように多くの人から応援されるクラブを日本につくりたいと憧れていたんです。

大学生の時にDeNAで長期インターンをしていた時期があるんですけど、その時にお世話になった先輩に『辞めようと考えている』とお話しした際、ちょうどその方がスポーツ事業本部の戦略部長をやっていまして、『実は新規プロスポーツ事業を検討している』と聞きました。DeNAは当時、12年に参入したプロ野球チーム・横浜DeNAベイスターズを黒字化させたタイミングであり、他競技への進出を検討していたのです。憧れていたプロバスケのクラブ経営に携われるかもしれない! と胸が高鳴りました」

もちろん、やりたいと考えても希望する部署に異動できるとも限らない。だがこのタイミングで藤掛氏を後押しするような人事制度がDeNAに導入された。それは、本人と異動先部署の意思が合致すれば問答無用で異動できるという「シェイクハンズ制度」だ。

「転職するつもりで活動をしていましたから、悩みましたね。実は、すでにその時点で旅行系のスタートアップと、外資系コンサルタント会社の新規事業部門から内定をもらっていたんです。特に外資系コンサルとバスケットボールで悩みました。悩んだ理由は3つ。外資系コンサルは、まず給料が良い。次のキャリアステップも描きやすい。そして、見栄えもいい(笑)。人生における意思決定って、夢や理想だけで決断するものではないと思うんですよね。『親が安心する』だとか、『友達にすごいと言われたい』といった軸で将来を決めることもあるし、それは間違いじゃない。

ただ、よく考えると外資系コンサルに心が揺れたポイントは、私自身が本当に良いと思ったものではなくて、周りからの目を意識して生まれたものばかりだということに気づいて。じゃあ、本当に自分自身が今やりたいことってなんだろうと考えたとき、やっぱり子どもの頃から憧れていたバスケットボールクラブの立ち上げだったんです。プロスポーツクラブは数が限られていますから、そのリブランディングの中心に立てるチャンスなんて、めったにない。『どう見られたいか』だとか『どういう存在でありたいか』というよりも、『何をやりたいか』を一番重視すべきかなと思い、バスケットボールを選んだんです」

一方で、趣味や好きなことを仕事に選ぶと、仕事を離れた場面でも純粋に楽しめなくなるという面もある。

「プライベートでバスケットボールの試合を見に行っても、純粋にはもう見られないですね。『この音楽良いな。なんだろう?』とShazam(曲名等検索アプリ)で調べたり、『たしかにこの施策はリピートにつながるな』って掲示物の写真を撮ったり。あるいは『試合中のこの演出に対してお客さんはどう反応しているのか』とか気になって、キョロキョロしてしまうんです(笑)。

ただ私は、どんな仕事をするにしても、結果を出すためには理解するために研究する過程が必要だと思っています。『好き』を仕事にするとその行動が苦じゃないというか、むしろ楽しいと思える。逆に好きなことをやっていたら、仕事としての結果につながるって考えると最高じゃないですか。『好き』を仕事に選んでよかったと思っています」

こうしてプロバスケットボールクラブのリブランディングという、新たなる仕事に挑むこととなった藤掛氏。だがスポーツビジネスは、デジタルの最先端ともいえるスマホゲームの世界とは真逆ともいえる環境だったという。後編では、そのような状況下でいかに、川崎ブレイブサンダースのファンをつくり、来場者数増を成し遂げたのかを聞く。

(ライター 羽田健治)

『ファンをつくる力 デジタルで仕組み化できる2年で25倍増の顧客分析マーケティング』 藤掛直人・著
 Bリーグのプロバスケットボールクラブ「川崎ブレイブサンダース」は、DeNAが運営を継承してから3年で、リーグNo.1の動員数を達成。チケットやグッズ販売といったチーム関連の売り上げも約2倍に拡大した。飛躍の原動力は、YouTubeやTikTokなどを積極的に使ったデジタル戦略にある。YouTube登録者数はBリーグのみならず、Jリーグクラブを含めてもNo.1。TikTokフォロワー数は日本のプロスポーツクラブでは読売ジャイアンツに次ぐ2位と、若年層を中心にプロ野球やJリーグも超えたファンを獲得している。本書では、これまでの歩みを振り返りながら、ファン層を広げてきたその取り組みを余すところなく公開。今やどんな商品、サービスを提供する企業でも求められる「ファンをつくる力」のために有益な方法論を、豊富な実例とともに明らかにする。
(日経BP/1760円・税込み)
  • 著者 : 藤掛 直人
  • 出版 : 日経BP
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