
古くから日本人の目を楽しませ、制作意欲をかき立ててきた折り紙。この日本の伝統が今、科学と技術の最前線で新たな可能性を開く技法「オリガミ」として注目を集めている。その分野は、宇宙探査からバイオ医工学、建築、ロボット工学、マイクロ・ナノ工学まで多岐にわたる。
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米ウェスタン・ニューイングランド大学の数学者であるトマス・ハルは長年、折り紙のパターンの数理的な解析に取り組んでいる。彼の小さな研究室には、そこかしこに折り紙が飾られていた。ハルが折り紙に魅せられたのは10歳のとき。折り鶴を開き、平たい紙に付いた規則的な折り線に驚いたことがきっかけだった。
ルールがあるから形になるのだと、彼は確信した。その折り紙の世界を支配する数学的なルールを突きとめようと、ハルをはじめ多くの研究者たちが、何十年も研究を重ねている。
子どもの遊びから科学へ
ハルはいくつもの折り紙を見せてくれた。たとえば、折り目をわずかにずらしながら山折りと谷折りを繰り返し、平行四辺形が並んだ折り線を作る「ミウラ折り」と呼ばれる折り方で畳んだ1枚の紙は、両端に軽く力を加えるだけで、瞬時に開閉する。1970年代に航空宇宙工学者の三浦公亮が開発したこの折り方は、95年に日本が打ち上げた宇宙実験・観測フリーフライヤー(SFU)の太陽電池パネルに応用された。
以来、折り紙の技法はさまざまな素材を折り畳むために活用されてきた。その一つに微細な細胞シートがある。北海道大学の研究者、繁富(栗林)香織が考案した技術「細胞折り紙」では、立方体の展開図のようなマイクロプレートを使う。プレート上で細胞が培養されて広がると、細胞にもともとある内部に縮まろうとする力が働き、プレートが引っ張られて折り畳まれ、重富が細胞の「レゴブロック」と呼ぶ立体的な構造になる。将来的には、この技術を再生医療に役立てたいと、繁富は考えている。
今でこそ折り紙は科学技術の人気分野の一つだが、初期の研究者たちは周囲の無理解という壁にぶつかった。ハルは、1997年に科学研究と教育を支援する米国立科学財団(NSF)の事業責任者と交わした議論を今でも覚えている。彼が研究の構想を話し始めると、相手はそれを途中でさえぎり、NSFは、標題にオリガミという言葉が入っている研究計画には一斉助成金を出さないと断言した。