現実的には、腸の炎症を止める手段が見つかるまで、肥満した人でなくても、高脂肪食を続ける生活を控えるのがよさそうだ。

[1]Cell Metab. 2016 Aug 9;24(2):295-310.

腸管上皮で炎症が起こらないよう遺伝子操作したマウスと通常のマウスに脂肪分を60%含む高脂肪食を摂取させた。その結果、腸管の炎症が起こらないようにしたマウスでは、インスリンの効きが良くなり、血糖値の上昇が30%程度抑えられた。(データ:Cell Metab. 2016 Aug 9;24(2):295-310. )

腸と腎臓が糖分や塩分を貪欲に吸収

「高脂肪食が腸の炎症を進めることは分かった。しかし、自分は年齢とともに脂っこいものは食べられなくなってきたから大丈夫」と言う人もいるかもしれない。ところが、伊藤教授は「年を取って脂肪を受け付けなくなるのは、脂肪分解酵素の分泌能が落ちているため。つまり消化器で老化が進行しているサインでもある。さらに注意したいのは高脂肪食を取らなくなる代わりに、甘いものや塩辛いものをたくさん欲する傾向が強まってくること」と言う。この「糖分や塩分を欲しがるようになる変化」が臓器の老化を加速させるのだという。

伊藤教授は高脂肪食による腸の炎症を起点とし、腸と腎臓がメタボドミノ倒しを推し進める仕組み「貪欲な臓器仮説」を22年に発表した[2]。

「そもそも発生学的に見ても、腎臓という臓器は腸管から派生してできた臓器であり、どちらの臓器も『吸収する』という性質を共通して持つ。腸と腎臓がせっせと吸収しようとするのがエネルギー源となる〝糖分〟と、血圧を調整して栄養素や酸素を体の隅々に運ぶプロセスにも関わる〝塩分〟」(伊藤教授)。

腸と腎臓が糖分や塩分を貪欲に吸収することによって老化が進み、さまざまな病気を引き起こしていくというのが「貪欲な臓器仮説」だ。カギを握るのが小腸や腎臓で糖分や塩分を効率的に吸収するための運び屋である「SGLT(ナトリウム・糖共輸送体)」というたんぱく質。この運び屋の働きを抑え、尿に漏れ出た糖分が再吸収されないようにする「SGLT2阻害薬」は糖尿病の画期的治療薬として14年に登場したが、血糖を下げるだけでなく、抗肥満や腎臓病、心不全を回復する作用もあることが話題となっている。つまり、腎臓の貪欲さにストップをかけるわけだ。

なお、腎臓は排せつの臓器と考えられがちだが、体に必要な糖やアミノ酸、塩分、ミネラルが一定に保たれるように、いったん排せつルートに乗ったものの実に99%を再吸収して体の恒常性を保つ。精緻な吸収機能を持つ臓器なのだ。

「吸収という骨の折れる仕事を担うために、腸と腎臓の細胞にはエネルギー源であるATPを作り出すミトコンドリアがたくさん集まっている。しかし、加齢によってミトコンドリアの機能は低下する。それでも食事から糖分、塩分をがんがん取り続けると、これらの運び屋であるSGLTは貪欲に働き続けるので、腸や腎臓の細胞には過度の負担がかかる。この過重労働がこれら臓器の老化を加速させ、糖尿病や高血圧、心不全、がんといった病気につながっていく」(伊藤教授)。

伊藤教授は腎臓の状態が悪くなると腸内細菌叢も悪化し、筋繊維まで萎縮してサルコペニア(加齢による筋肉量の減少および筋力の低下)が起こることを動物実験で確認した[3]。

「つまり、腎臓の貪欲さの弊害は、腸・筋肉にも波及するということ。筋肉の減少を抑えるためには腸や腎臓の健康が重要というのは盲点だったが、今後はもっと重要視していくべきだと考えている」と言う。

このように、腸で起きた炎症が腎臓や筋肉など全身の臓器にダメージを与えて老化を進める一方で、腎臓で起きた異常が腸や筋肉に悪影響を与える仕組みもあるというわけだ。

腸と腎臓は相関し合って全身の老化を進める。

[2]Metabol Open. 2022 Feb 9;13:100169.

[3]Nephrol Dial Transplant. 2020 Sep 1;35(9):1501-1517.

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中性脂肪値とHDLコレステロール値が臓器老化の指標