井上芳雄です。6月9日から帝国劇場で始まったミュージカル『ガイズ&ドールズ』は、新型コロナウイルス感染症拡大防止の対応のため、6月26日~7月9日まで公演中止となりました。帝劇では予定されていた公演の半分くらいしかできず、来場を楽しみにされていたお客さまには申し訳ない気持ちでいっぱいです。7月16日から福岡の博多座で公演できることに望みをつないできたので、無事開幕できることを祈るのみです。今回は、その『ガイズ&ドールズ』のすてきな仲間たちを紹介しましょう。

公演が最初に発表されたとき、ミュージカルファンの方に一番驚かれたのは、キャストが豪華なことでした。『ガイズ&ドールズ』はもちろん名作なのですが、作品自体は日本でも何回も上演されています。そのなじみある作品のメインキャラクターを、僕、明日海りおさん、浦井健治君、望海風斗さんと、それぞれ帝劇で主役を張れるくらいの顔ぶれが演じることが話題になりました。とはいえ、自分がキャスティングをしたわけではないので、配役が明らかになって僕自身もびっくりしました。
物語の舞台は1930年代のニューヨーク。僕が演じる天才ギャンブラーのスカイ・マスターソンとキリスト教の団体である救世軍軍曹のサラ・ブラウン(明日海りお)、ギャンブラーの仕切り役ネイサン・デトロイト(浦井健治)と彼の婚約者であるショーダンサーのミス・アデレイド(望海風斗)という2組のカップルを中心とした恋愛模様を描きます。浦井君とは、しょっちゅう絡んでいるわりに、ミュージカルでの共演は2013年の『二都物語』以来なので久しぶり。ネイサンという役は、海外では小太りでひげのおじさんがやっているイメージだったので、浦井君が今までにやってきた二枚目の役と違っていたのも新鮮でした。一番驚いたのは、ヒロインのサラとアデレイドを明日海さんとだいもん(望海さんの愛称)が演じること。宝塚歌劇団のトップスターを卒業して間もない2人がそろって出るだけでも珍しいのに、2人は同期で、僕にとっては妹の同期でもあるので、こんな顔合わせが実現するんだと。それは、すごくうれしいことでもありました。
僕は浦井君のことを、ネタで「よく分からない」と言っているのですが、それは半分は本当。彼はつかみどころがなくて、そこが魅力でもあります。今回演じるネイサンのキャラクターにもそういう要素があります。浦井君は、肉布団を入れて太ってみせるわけでも、ひげを生やしたりするわけでもなく、かといって二枚目で通しているわけでもなく、彼なりの絶妙なバランスのネイサンを演じています。
浦井君の特徴であり強みでもあるのは、セリフが切れるというのか、テンポよく言うことができて、自分のリズムに持っていけること。だから1人でワアワア騒いで、面白いことを言っているネイサンの役に合っているし、急に意外なことを言い出したりするテンポや間も、浦井君自身が持っているものと重なります。ときどきセリフが速すぎて、何と言っているのか分からないときがありますが(笑)、それも芸風なのかな。一緒にやって、俳優としての個性がはっきりしてきたと思ったし、それは彼の武器でしょうね。
浦井君の稽古場での様子や役を作っていく過程は、久しぶりに見ました。もともとまじめで、稽古場にもやたらと早く入るみたいなところがあったのですが、そこは変わってないというか、一生懸命の度合いがむしろ加速していました。稽古の最初からセリフも頭に入っているし、前よりもストイックになったのかな。休憩中に1人で台本を読んでいたり、復習したりもしていました。僕の中では、浦井君はいつもみんなと仲よくしていて、休憩中もワイワイやっているイメージだったので、ちょっと意外でした。きっといろんな経験をして、いまのあり方にたどりついたのだと思います。