演出家マイケル・アーデンのまいた種が成長
田代万里生君は、ナイスリー・ナイスリー・ジョンソンというギャンブラーの仲間を演じています。彼もメインも張る役者さんなので、本当に豪華なキャストです。コミカルな役柄ではありますが、表現の鮮やかさやキレのよさを見ると、万里生君が近年やってきたいろんな経験、二枚目だけじゃなくて、悪役も狂言回しもストレートプレイもやってきたことが集約されたような役だと感じます。もともとは歌のスペシャリストですけど、そこに甘んじない表現がすごくて、ミュージカル俳優としての深みを感じました。僕との関係では、彼はできる中間管理職みたいな感じで、「芳雄さん、明日のスケジュールはこうらしいですよ」とか、いろんな情報を教えてくれたりするので、すごく助かっています。デジタルにも強いし、珍しいタイプのミュージカル俳優ですね。
竹内將人君は、ギャンブラー仲間のベニー・サウスストリートという役。僕と同じ福岡の出身で、同じ幼稚園で、同じく東京藝術大学声楽科に進みました。彼はさらに英国王立音楽院に留学して、ミュージカルの勉強をして、帰ってきてから『レ・ミゼラブル』などに出ています。初共演ですが、同郷なのは知っていたので、最初は知り合いの男の子みたいな感じで接していました。一緒にやってみて、海外のメソッドを身につけたからなのか、元からなのかは分かりませんが、何をやっても立ち姿の軸がしっかりしているのが素晴らしい。また1人、新しい世代のミュージカル俳優が出てきたと思って見ています。
木内健人君は、ギャンブラー仲間のラスティー・チャーリーという役。東宝ミュージカル・アカデミーの出身で、2017年に『グレート・ギャツビー』をやったときはまだアンサンブルの1人だったのですが、その後いろんな作品で役を得る活躍をしていて、『レ・ミゼラブル』ではアンジョルラス役をやったりしています。彼もまた、ここから伸びていこうとする勢いのあるミュージカル俳優で、生きのいい若手の男優です。
友石竜也さんは、ギャンブラーのハリー・ザ・ホース役。劇団四季で活躍された方で、俳優業と平行して、ミュージカルソウルキャンプアカデミーというスクールを主宰されています。歌やお芝居を教えつつ、役としても舞台に出るという、俳優のあり方のひとつの形を実践されています。十分なキャリアをお持ちの上で、アドリブはやったことがないから苦手なんだと素直におっしゃっていて、でも挑戦してみるという姿勢もすてきでした。
ベテランの方々の活躍も心強いです。瀬下尚人さんは、ビッグ・ジューリという大物ギャンブラーの役。THE CONVOY(ザ・コンボイ)というパフォーマンスユニットの創立メンバーの1人で、いろんなミュージカルにも出ている方です。お芝居もすごく面白くて、初めてご一緒できてうれしかったです。石井一孝さんはブラニガン警部補という重要な役をやられています。一孝さんは基本的に歌でずっとやられてきた人だと思いますが、そういうベテランのミュージカル俳優の方が、今回は歌じゃないところでも物語を支えてくれています。林アキラさんは、サラが所属している救世軍のアーヴァイド・アバナシー役。最近は歌唱指導でご一緒することが多いのですが、今回は役として素晴らしい歌声を聞かせてくださいます。女優さんでは、未沙のえるさんが救世軍のカートライト将軍を演じています。宝塚でずっとやっていらして、コメディーの天才と言っていい女優さんです。何ともいえないおかしみがあって、素晴らしい演技の形だと思います。
アンサンブルの方々は初めてご一緒する方が多くて、僕がまだ出会ってないところに多くの素晴らしい俳優さんがいることを実感しています。たくさんダンスシーンがあって、エイマン・フォーリーという振付師がいろんなニュアンスの今のダンスを振り付けてくれたのですが、みんなしっかり応えています。僕は、だいもんが演じるアデレイドがダンサーとして働いているレビュークラブの場面が好きで、よく舞台袖から見ていますが、ショーナンバーを踊る女性たちのキレにほれぼれします。ダンスのレベルも高いし、ちゃんと歌ってもいるので、すごいなと。日本のミュージカル俳優のレベルがすごく高くなっているのを感じます。みんな経験値はバラバラだと思うのですが、いろんな場面でお芝居をしながら、踊ってもいて、それを喜々としてやっているのが本当に頼もしい限りです。
カンパニー全体のことを言うと、取材などで「スターがいっぱいいて、さぞかし華やかな稽古場でしょうね」とよく聞かれたのですが、むしろ普段より地味じゃないのかと思うくらい、みんながそれぞれ自分のやるべきことに徹している稽古場だったし、カンパニーだと思います。それは演出のマイケル・アーデンのおかげであるように感じています。
稽古が始まる前に、いつもマイケルがやっていたことがあります。みんなが輪になって集まると、マイケルが「何かシェアしたいことはありますか?」と問いかけるんです。そこでは「昨日飲み過ぎたので、ちょっと気分が悪いです」とか「昨日トニー賞授賞式がありました」とか、誰が何を言ってもいい。僕も言うけど、アンサンブルの若手の1人1人も「昨日、YouTubeで面白い『ガイズ&ドールズ』のナンバーの動画があったので、シェアしたいです」と言える。とてもフランクな関係で、稽古を進めてくれていました。それがカンパニーの空気として、ずっと反映されているように思います。コロナ感染で途中から帝劇での公演ができなくなりましたが、そのときもグループLINEの中で、自分の状態や周りへの気遣いをシェアし続けました。マイケルがまいてくれた種が、ずっと伸び続けて、本当にいいカンパニーになっていると感じています。