開業までの3年間と開業後の3年間、ホテルの立ち上げに従事しこの間、アルコール関係だけでなく、食全般について随分と知見を深めることができました。同時に体重が激しく増えたのも事実ですが。そこでの私の仕事はホテルの会計システム構築だったり、事業全体の採算チェックやベッドなど資材全般の調達だったり。サッポロビールの先輩だけでなく、ゼネコンや商社、ウェスティン側からの出向者もいて、計10人ほどでそれぞれ仕事を分担しながら開業準備を進めましたが、従来とはまったくの異文化で実に面白かったです。

ホテル開業前には試食も経験しました。食材調達は「餅は餅屋」でしたが、伝票類は最後に経理担当でもあった私に回ってきます。どんな食材をどこで調達しているのかも伝票類を見れば一目瞭然で、キャビアひとつとってもずいぶんと値が張るものだな、と分かり勉強になりました。
海外出張先で初めて知った「生ガキ」の味
ウェスティンの本拠、米国を中心に海外出張もこの時期、経験させてもらい、出張先で先輩に連れられ、初めて口にしたものも少なくありません。日本を出発し、米ボストンの空港に降り立ったその夜、「おい、行くぞ」という先輩と入ったオイスターバーでの生ガキもそのひとつでした。「えっ、入国早々、いきなりオイスターバーですか」。こちらは腰が引けているのに、先輩はお構いなしでした。
実は私は入社するまで一人暮らしの経験が無く、基本「お袋の味」で育ちました。母親も食に関しては安全志向が強く、食あたりの懸念など多少なりとも危なっかしい食材や辛いものなど刺激が強い料理が食卓に並ぶ機会は皆無でした。私自身、社会人になるまでは確実なものしか口にせず、大好物だったのはハンバーグやナポリタン、オムライスなど。たまに親と一緒に出かけた東京のデパートの特別食堂で食べる「うなぎ」もハレの日の食事の一つで楽しみだったのを今でも思い出します。今の時代は何でもすぐに口にできますが、その分、食に対する夢が失われているようにも思えます。