――日本での1票の格差をめぐる議論には、どのような特徴や課題がありますか。

「60年代初頭に越山康弁護士が初めてこの問題の訴訟を起こして以来、一貫して、法律家を中心とした市民団体がその中心にいます。『法の下の平等』を求めて市民団体が裁判所に訴え、裁判所が何らかの判断を下し、それに対して政治家が対応するという構図です」

1票の格差訴訟は弁護士らの市民団体が中心になってきた(2018年、都内)

「裁判官が違憲、合憲などの判断をする際の基準になっているのが、人口が最大の選挙区と最少の選挙区の比較です。これが何倍だと問題なのかが訴訟の争点となってきました。その結果、何百とある選挙区のうちの上限と下限のみを気にして、その間にある残りの選挙区、つまり全体像を見ないまま議論が進んでいます」

「このような議論の仕方では、抜本的な改善は難しいと思います。過去の区割り修正では、最大・最少比は改善されても、全ての選挙区を勘案すると1票の格差はかえって微増していた場合もありました。最大・最少比が何倍以上だとレッドカードで、それ以下は許容範囲、というような日本での議論の仕方は、最高裁判例が作っている慣例だと理解していますが、投票価値の平等という原理原則を考える場合には的を射ていないように思います」

――20年の国勢調査をもとに衆院小選挙区の区割りを10増10減とする見直し案をどのように評価しますか。

「ルーズモア・ハーンビー指標を使って、今回の見直し案の1票の格差を計算したところ、3.6でした。各都道府県内での選挙区人口は定数を都道府県レベルの人口で単純に割ったものを使用しています。同じ国勢調査結果を用いて、現行の定数配分の設定で計算した場合は6.5だったので、良い方向への変化だと思います」

「しかし、3.6という数字を『コップには水が半分も入っている』とみるか、『半分しか入っていない』とみるかは、解釈が分かれるのではないでしょうか。もし米下院並みに低い指標を狙うなら、都道府県を単位とした配分の計算式そのものを再考する必要があるかもしれません。都市への人口集中が進めば都道府県の間の人口格差は広がります。今後も都市への人口集中が進むとすれば、都道府県を配分先の単位とした現在の計算式を使っている限り、これ以上の改善は難しいと思います」

「抜本的に改善するなら、いくつかの県を合わせてブロック化した地域単位をもとにした計算方式にすることも将来的に必要になるかもしれません。あるいは、比例代表選出議員を減らすか衆院総定数を増やして小選挙区議員の数を増やす、という方向での対応も考えられます」

――1票の格差問題はほかにどのような論点がありますか。

「議席の配分と選挙区境界線の策定というテクニカルな問題として語られがちですが、その前に、政治家はどのように有権者を代表できるのか、という民主主義における代表理念の問題としての議論を重ねることが重要だと思います。それにあたっては、どのような代表理念を体現する選挙制度を採用するか、そして、日本のような二院制の場合には、両院の選挙制度の間で代表の理念をどう組み合わせるか、の2つが主な論点になります」

「選挙制度の代表理念には①政治家がある特定の選挙区に居住する有権者を代表する場合②所属政党を支持する有権者を代表する場合③全ての有権者を代表する場合――があります。制度の典型例としては①は小選挙区制、②は拘束名簿式比例代表制、③は大統領選挙です。さらに上院での制度設計でよくみられるものとして、米国のように④人口規模に関係なく、州などの行政単位で区切った領域(地域)を代表する場合が加わります」

「これらの代表理念の4タイプから日本の制度設計を考えると、衆院選は小選挙区が①を、地域ブロックごとの拘束名簿式比例代表は①と②の両方を体現しています。参院選は県を単位とする選挙区選挙が①、全国1区の非拘束名簿式比例代表制が②と③の代表理念を体現しています。単純化した見方ですが、④の代表理念が日本での制度設計には組み込まれていないことがわかります」

「個人的な意見ですが、衆院は①と②、参院は③と④の代表理念を目指すようすみ分けを明確にするのは改革方針のひとつだと思います。現状では①が両院で重複していますし、④の代表理念は体現されていません。このような制度設計にするためには、例えば参院を都道府県代表の院と位置付けるなど、憲法を修正する必要が出てきます」

「現行憲法の条文のもとで制度改革を考えるとしたら、衆院は基本的に変更せず、参院で非拘束名簿式比例代表をなくし、県単位または地域ブロック単位の選挙区選挙だけにすることを提案します。これにより、1票の格差をある程度小さく抑えたうえで、地域を代表するという理念を加えられます。この場合、全国民の代表という③の理念が欠けますが、これは参院選で比例代表選挙に議席を配分していては司法が要求する程度の1票の格差抑制が可能にならないためで、④を優先させる考え方をとっています」

(編集委員 斉藤徹弥)

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