気候変動で増加する森林火災 再生の道も険しく

2022/5/2
ナショナルジオグラフィック日本版

世界各地で、猛暑と干ばつによって森林の木が次々に枯れている。過去1万年間に地球の森林面積の3分の1が失われたが、そのうちの半分は1900年以降に消失した。多くの地域で、森林はもはや自力で回復できない状態になりつつある。

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森は米国のイエローストン国立公園の南に位置し、少し前までは灰と焼け焦げたマツだけのモノクロの世界だった。だが2021年夏には、高さ数十センチメートルの若木が辺りをみずみずしい緑色に染め上げ、紫色をしたヤナギランの花と真っ赤なバファローベリーが黒焦げの倒木に華やぎを添えていた。16年に「ベリー・ファイア」と呼ばれる森林火災がワイオミング州の84平方キロメートルに及ぶ一帯を焼き尽くしてから5年、森も再生の時期に入ったのだ。

この森の回復状況を調査している生態学者がいる。米ウィスコンシン大学マディソン校のモニカ・ターナー教授だ。うだるように暑い7月、ターナーは1人の大学院生とともに、地面に張った長さ50メートルのテープに沿って進みながら、テープの左右1メートル圏内にあるコントルタマツの若木を1本ずつ数えていた。人里離れたこの森では、シカやオオカミといった動物たちとひょっこり出くわすこともある。

足元には細い若木が所狭しと生えている。2人はほんの数秒で歩ける距離を、小一時間かけて進んだ。その区間を進む間に数えた若木は合計で2286本。これは1ヘクタール当たりに換算すると、17万2000本となる。この目を見張るような回復力が「コントルタマツの特徴だ」とターナーは言う。

とはいえ、隣接する区画を前日に調べたときに、気になる状況があった。雑多な花や草とひび割れた地面が目につくばかりで、長さ50メートルの調査区間にコントルタマツの若木はわずか16本、別の区間には9本しか育っていなかったのだ。

これら2つの場所は、以前はほとんど見分けがつかなかった。どちらの場所も南北戦争の頃に火災に遭っている。ただ、一つだけ大きな違いがあった。マツの若木が少ない方の区間は2000年にも火災に見舞われたのだ。この火災後に芽吹いた木は、種子を含んだ球果(松かさ)を十分につける前に、16年の火災に遭ってしまった。そのためこの場所では、マツの森が再び形成されることはなく、今までとは違った風景に移り変わろうとしている。ここでは今後何百年、ひょっとすると何千年も、マツの森がよみがえることはないだろう。

イエローストンで今起きていることは、世界中で進む現象の一部にすぎない。気候変動に伴い、森林火災は規模も激しさも頻度も増している。オーストラリアでは2019年と20年の森林火災で米国のフロリダ州に匹敵する面積が焼失した。ここで問題なのは、多くの森林が火災後に回復困難な状況に陥っていることだ。これはまた、イエローストンに限った問題ではないし、火災だけが原因とは限らない。森林の回復を妨げている元凶は気候変動なのだ。

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気候変動の影響