日経ナショナル ジオグラフィック社

ウニを食べて海洋保全

ハーバーハウス・インでは、総料理長のマシュー・カメラー氏が腕を振るい、トゲだらけのウニをミシュランの星付きメニューに変身させている。カメラー氏は、慎重に殻を割って取り出したウニの身をきれいに洗い、茶わん蒸しや地元産穀物を使ったポリッジ(かゆ)に取り入れている。また、だし汁のソースにウニを加えて、パスタを模した千切りのセロリアック(根セロリ)にかけることもある。この店では、ウニをバターに混ぜたり砂糖漬けにしたりすることもあり、ウニを食べるには無限の方法があることを知らされる。

アメリカムラサキウニで満杯の籠を引き上げるダイバー。アメリカムラサキウニは商業的に漁獲されていないので、レストランは地元のダイバーに手作業での漁獲を依頼している。(PHOTOGRAPH BY MEG ROUSSOS, BLOOMBERG / GETTY IMAGES)
ウニの殻を割って、食用となる生殖巣を取り出す作業(PHOTOGRAPH BY MEG ROUSSOS, BLOOMBERG / GETTY IMAGES)

海洋保全のために料理に工夫を凝らす腕利きのシェフは、カメラー氏だけではない。同じくメンドシーノ郡のリトルリバーにある「リトルリバー・イン」や、ポイントアリーナにある「イザカヤ・ガマ」のシェフたちも、この理念を追求する料理に取り組んでいる。

シェフたちはできる限りアメリカムラサキウニを用いるようにしているが、海底には豊富にいるとはいえ、このウニを実際に調達するのは容易ではない。現時点では、レストラン用にアメリカムラサキウニを捕る方法が確立されていないため、シェフたちは地元のダイバーに依頼したり、自力でウニを捕ったりするしかない。アメリカムラサキウニが入手できない時は、市場に出回っているもっと大きなアメリカオオキタムラサキウニを使うことが多い。

どちらのウニを使うにしても、メニューにウニがたびたび登場すれば、このトゲだらけの無脊椎動物を口にする抵抗感も薄らぐのではないかと地元の人々は期待している。

カメラー氏がウニ料理を提供し始めてから4年になるが、今のところ客の反応は上々だ。「お客様には、私たちを信頼してウニを食べてみるようお勧めしています。実際に口にすると、そのおいしさのとりこになって、ウニに対する意識が一変する方がほとんどです」と氏は話している。

シェフや地元の人々は、このウニを料理に取り入れるだけでなく、年に一度の催し物を通じて、ウニのおいしさが広く周知されることを期待している。2022年6月に初めて開催された「メンドシーノ・コースト・ムラサキウニ・フェスティバル」では、料理の実演や啓発イベント、各レストランの特製ウニ料理の提供のほか、公開間近のドキュメンタリー映画『海のセコイア』の予告編上映会などが行われた。このドキュメンタリーは、カリフォルニア州のケルプの森の変遷を描いた作品だ。

ウニはさまざまな料理に取り入れることができる。カリフォルニア州ビッグサーにあるホテル「ポストランチ・イン」のレストラン「シエラ・マール」では、キハダマグロのラビオリにウニを載せ、ウニのムース、赤シソ、ポン酢、ワサビオイルを添える(PHOTOGRAPH BY LUCYDPHOTO, GETTY IMAGES)

「私にとって、このウニ・フェスティバルの本当の目的は、海底で何が起きているかを一般の人々に知ってもらうことです」と、リトルリバー・インのオーナーで今回のフェスティバルの主催者のひとり、カリー・ディム氏は話している。「私たちにとって、アメリカムラサキウニを食べることは海の生態系を支える手段なのです」

地元の非営利団体ノヨ海洋科学センターにも、このフェスティバルの収益の一部が配分された。同センターのシーラ・セマンズ事務局長は、環境保全のために、地元のすべての人にウニを食べてみてほしいと考えている。「対話を通じて、環境に害を加えないだけにとどまらず、ウニを食べて環境を実際に改善しようというところまで関心を高めることを目指しています」

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ケルプの森を救う方法はほかにもある