リファラル採用の落とし穴 東京大学教授・山口慎太郎ダイバーシティ進化論

2022/11/17

優れた即戦力人材を確保する方法の一つとして、自社の従業員からの紹介や推薦に基づいて採用活動を行うリファラル採用がある。

リファラル採用は応募者にとっても企業にとってもメリットが大きい。双方をよく知る従業員が紹介しているため、履歴書や試験、短時間の面接では分からないような情報が得られる。その結果、採用に至りやすく[注1]賃金も高くなる傾向がある[注2]。採用後のパフォーマンスは他の経路での採用者よりやや高い程度だが、離職率が低く定着しやすいという特徴がある。リファラル採用では、採用そのもののコストが抑えられる上、離職率も低いため、従業員1人当たりの利益は20~40%も高くなる[注3]。

メリットの多いリファラル採用であるが、多様性という観点でみると落とし穴もある。紹介される人物は、性別や職務経験など様々な面で、紹介者である従業員と似ている[注4]。男性中心の組織が、この点を顧みずにリファラル採用を進めてしまうと、女性の採用が進まず組織の多様性を損ねてしまうおそれがある。

紹介に基づく経済取引は、従業員採用に限らず広くみられる。たとえば、米国では家庭医が最初の診断を行い、必要と判断すれば専門医を紹介する。研究[注5]によると、男性も女性も同性の医師を紹介する確率が、異性の医師を紹介する確率よりも10%高いことが分かった。紹介者の75%は男性であるため、結果的に女性の専門医が選ばれにくくなり、男女間での収入格差の一因となっている。

リファラル採用はメリットも多いが……(写真はイメージ=PIXTA)